開発への興味のきっかけは、大学時代に参加したボランティア 大学時代は名古屋工業大学というところで、資源環境マネージメントを学んでいました。環境という名前はついているものの、かなり科学的な内容だったので、今の仕事に直接関係はないですね。当時から環境問題に興味はありましたが、学んでいる内容としては遠いところにいたので、夏休みを利用して環境ボランティアに参加したんです。オーストラリアで植林活動などに取り組みましたが、いろいろな国からの参加者たちと共同生活をする中で、生活スタイルの違いを経験し、切磋琢磨したのが何よりもいい経験になりました。
そういった経験を通して国際協力への興味が自然と出てきた大学時代を終え、さあどうするかと考えたとき、気候変動問題を環境の観点から学びたいと思い、選んだのがカリフォルニアにあるモントレー国際大学院です。気候変動問題に特化した分野でインターンをしたいと思い、いろいろと調べる中で、日本の政策研究機関である「地球環境戦略研究機関(IGES)」というところを見つけ、夏休みにインターンをさせていただきました。
「20代、30代はチャレンジのとき」と踏み切った転職活動 その時のご縁がもとで、大学院卒業後はIGESへ。アジア諸国の環境問題や、気候変動問題に関して、政策的な観点から研究や提案をしていました。アップストリームな政策や研究の仕事が多かったこともあり、今度は実際にプロジェクトに関わる仕事もしてみたいな、と思い始めていたある日、アジア開発銀行職員の方に会い、人材を募集していると知ったんです。日本での安定した仕事は魅力的ではありましたが、20代、30代はチャレンジのときと決めていたこともあり、またキャリアの目標も考え、コンサルタントとして入行することになりました。
日本から海外への転職ではありましたが、IGESも日本語と英語が公用語で3〜4割は外国人という国際的な機関だったこともあり、案外スムーズに働き始めることができました。カーボンファイナンスや気候変動の政策に関わる仕事を始めて1年半ほど経ったときに、JPOのことを知ったんです。
正直ダメだと思った、JPOの選考過程 JPOとは「ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー」のこと(注) 。私はその時点でアジア開発銀行の仕事をマニラでしていたので、基本的にはメール、ビデオ会議で選考プロセスを進めていただきました。ワシントンのセクターマネジャーがちょうどマニラに出張していたので、最終面接はマニラの世界銀行オフィスで行ったのですが、こちらもパネリストの質問にうまく答えられず感触としては難しいと思っていたんです。幸いなことに採用が決まり、JPOを経て、今は気候変動専門家として仕事をしています。
JPOは応募する時点でTOR(Terms of Reference、採用情報)があり、所属先のユニットがある程度わかります。私は前職の契約が切れる時点で入行したいと伝えた結果、最終面接から3〜4カ月ほどで入行できました。私はスムーズだった方ですが、それでもTORを見た時点からは1年ほど経過していたので、TOR通りの仕事をすることになるとは限らないというのが、JPOで入行した同僚たちの共通した感想でしたね。
選考の倍率は専門分野にもよるようです。私の応募したTORはかなり特定された分野だったので、他のJPOの方よりは倍率も低めだったと思います。また、JPOの期間を経て、正式に世銀に入行する際は、担当のマネージャーが若手職員を育てたいという方だったので、幸運なことに非常にスムーズでした。このあたりは運もあるかもしれません。
アップストリームとオペレーション、どちらも大事な仕事です
インドビハール州の灌漑用ソーラーポンプ施設の現地視察風景(2015年撮影) 現在はインドやスリランカ関連の仕事に主に携わっているのですが、アップストリームの仕事としては、世界銀行全体で気候変動のアクションプランを発表する際、南アジアの気候変動計画の作成の手伝いをしたり、内部向けの気候変動に関する支援、国別のパートナーシップの枠組みや、気候変動の項目の診断、レビューなどをしています。
オペレーション(プロジェクト)としてはカーボンファイナンスが専門で、それを活用した案件形成と支援をしています。そのひとつとして、スリランカでの再生可能エネルギーを促進するためのプロジェクトのリーダーとして、実施に向けた準備をしているところです。オペレーションの方が割合としては多いですが、アップストリームな仕事は自分のやっていることの優先度合いを理解したり、全体の中での位置づけを知るためにも役立つ存在なので、作業としては大変ですがこれからも大切にしていきたいですね。
出張は基本的には2カ月に一度ぐらいです。プロジェクトがあるインドとスリランカが中心ですね。カーボンファイナンスは信託基金になるんですが、お金を出しているドナーと、お金を受け取る側の途上国が参加するドナー会議にも出席しなければならないので、会議が行われるところであればどこでも行きます。会議は1年に2回程度行われ、進捗状況を確認したり、途上国のカーボンマーケットを支援する目的で新しい情報や各国のプロジェクトの内容をシェアしたり、といった内容です。専門家を呼んで技術的なワークショップをすることもあります。
環境問題と経済成長は両立できる? 正直、仕事に関してはすべてがチャレンジで、毎日が困難の連続ですが、発想を変えれば世界銀行でしかできない仕事をしているという実感はあります。難しさに対するチャレンジが世界銀行での仕事の醍醐味ですね。仕事上での最大の喜びは、プロジェクトをやり遂げて、クライアントに感謝されることで、それは場所や機関が変わっても変わらない部分だなと日々実感しています。
気候変動に関しての今後の見通しですが、2015年11月にパリで国際会議があり、先進国だけでなく世界の196の国と地域すべてがそれぞれに見合った目標を設定し、温室効果ガスの削減目標に向けて努力していかなければいけないことが決まりました。これに伴って今後、我々のような機関への支援要請が多くなるだろうと言われています。もちろん途上国としては、環境問題よりも経済発展を優先したいという思いもあるでしょうが、現在の途上国の温暖化に対する影響は決して無視できるものではなく、むしろ先進国を凌駕しつつあるというのが現状です。
今では温室効果ガス削減と経済発展をどのように両立させるか、という点に議論が移りつつありますね。例えば、エネルギー産業で化石燃料を使わない、再生可能なエネルギーを推進することで、自国の発展と環境問題への貢献を両立できる、といった方向に途上国を導くのが我々のしていることです。
今後のキャリアビジョンとしては、まだ入行して4年で知らないことも多く、勉強の日々ですので、より世銀のオペレーションに深く関わり、南アジアだけではなく他の地域の気候変動問題にも従事したいですね。
「あきらめない」ことが肝心 実は先日、セミナーでお話をさせていだたく機会があったのですが、その際に1枚の写真を皆さんにお見せしたんです。IGESと世界銀行が共催し、私が準備に関わったワークショップでの集合写真だったのですが、スピーカーとしてアジア開発銀行時代の同僚や、現在は環境省にいらっしゃるIGES時代の上司など、今まで仕事を通して知り合いになった多くの方々に来ていただいた、自分のキャリアを凝縮したような1枚でした。専門的なネットワークというものが、私には一番の財産でしたし、本当に助けられましたね。国際機関を目指すのであれば、できれば学生の頃からでも専門性を積み上げていくということは、やはり強みになると思います。
一般的な日本の組織だと定期的に職務が変わるのが普通だと思いますが、世界銀行は博士号を取ったあと、または専門の仕事を経て入行する職員が多くいます。そういった職員と比べると専門分野で見たときにギャップがあることも多いので、その差を埋める努力は必要になってくるかもしれません。私はその点、通常の企業よりも専門性が高い機関出身だったので、差をあまり感じなかったのはありがたかったですね。
また、あきらめないことも肝心です。実はJPOに応募する前にも、何度か世界銀行のポストに応募して、ダメだったことがあったんです。こう言ってはなんですが、採用されるかどうかは、自分の努力だけでなく、周囲の状況など自分がコントロールできない部分も関係してきます。つまりは巡り合わせですから、その確率を上げるためにはチャレンジする回数を上げるしかない。もちろん努力も大切ですが、絶対に入りたいという意志があるならば、あきらめないことを忘れないでくださいね。
(注) JPO:世界銀行と日本政府の連携で2009年に始まった日本人の若手職員採用プログラム。応募資格は、入行時に32歳以下で、世界銀行の業務に関係の深い分野に関連する修士号および2年以上の職務経験を有し、英語で職務遂行可能な、日本国籍を持つ方。募集するポジションのTORを公表し、候補者は自身の専門性にあったポジションに応募。勤務先は多くがワシントンDCの世銀本部(途上国事務所の場合も有り)。原則2年間の任期の後、勤務評価に基づき更新が可能。 詳細は以下のサイト参照https://www.worldbank.org/ja/country/japan/brief/careers#jpo