今週、名取市閖上地区を訪れたタイのタマサート大学シリントーン国際工学部助教授のティーラユット・ホラノント氏は、太平洋へと続く静かな景色を眼鏡越しに見つめていました。しかし、ホラノント氏が目にしていたのは現在の風景だけではありません。かつてその場にあった街の風景も見ていました。
拡張現実(AR)ツールが取り付けられた眼鏡により、日本の広範囲にわたる沿岸部を襲った2011年の東日本大震災で津波が起こる前の閖上地区の画像を重ねて見ることができたのです。
「津波前の閖上地区の様子を視覚化したものを見ることで、この場所を襲った災害の甚大さがはっきりとわかった。現在の景色を見ただけではまるで初めからから何もなかったように思えるため、この眼鏡がなければ被害の大きさを理解するのは難しかっただろう」と、タイのタンマサート大学シリントーン国際工学部助教授のホラント氏は語りました。
震災前の閖上地区は約7,000人が暮らす住宅地でしたが、津波が街全体を押し流し、一面が平らな景色が残りました。
ホラノント氏がこの眼鏡を使用したのは、2011年の震災を経験した地元の高校生たちが主催したツアーでのことです。「語り部」(情報を語り継いでいく)活動の一環として開催されたこのツアーでは、テクノロジーと語りを組み合わせることにより、津波に襲われる前の生活の記憶や災害そのものから生き残る体験を残していくために役立っています。
「災害後の状況に立ち向かっていく日本の人々の立ち直りの力に感銘を受けた。この経験から私たちも多くを学ぶことができる」と、ホラノント氏は付け加えました。
ホラノント氏は、仙台での国連防災世界会議の会期中に開催されたアジアレジリエンス・フォーラム2015に参加した技術者、研究者、政府関係者、災害リスク管理専門家の1人です。
世界銀行の防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)が日本のレース・フォー・レジリエンスと共同で開催したこの2日間のフォーラムでは、自然災害に対するレジリエンスの強化で技術―地元コミュニティの人々によって、あるいはそうした人々のために構築された情報通信技術(ICT)など―が果たす役割についての評価が行われました。
フォーラムでは、アジア地域の各地からの参加者がそれぞれのプロジェクトについて議論し、民間の防災・減災アプリの開発に関して公共セクターとの協力で得られた教訓に関する情報交換が行われました。
そうしたツールの1つがJakSAFEです。この無料オープンソース・ソフトウェアは、ジャカルタ市内で洪水によって発生した直接的な被害や損害を推定するための災害損失評価データの作成を自動化するために利用されています。
また、ICTツールを災害リスク管理に応用する潜在性についても議論されました。その1つが、東京大学大学院工学系の中須賀慎一氏をリーダーとする東京大学超小型衛星チームが開発・運営して昨年打ち上げられた超小型衛星「ほどよし」です。軽量で低コストのこの衛星には、分解能6メートルで衛星画像を取得する光学センサー、通信用のアップリンク/ダウンリンク伝送、その他のセンサーを追加できる余剰ペイロードという3つのコンポーネントがあります。この衛星は開発および打ち上げが低コストでできるため、途上国での活用の可能性が期待されています。
アジアレジリエンス・フォーラムでの講演者のうち数名は、地震、台風、洪水といった自然災害に強いコミュニティづくりに利用できる、地元の状況に合ったテクノロジーの拡大を目的としてGFDRRと地元パートナーが支援する活動「コード・フォー・レジリエンス」にも参加していました。
2014年には、バングラデシュ、ハイチ、インド、インドネシア、日本、パキスタン、フィリピン、ベトナムの8か国でコード・フォー・レジリエンスの「コード・スプリント」が11回にわたり開催され、ソフトウェアやハードウェアの開発者1,500人以上が参加しました。
コード・フォー・レジリエンスでは、災害管理機関、科学者、技術コミュニティの間での地域レベルや世界レベルでの連携の促進を続けています。新たなプロジェクトが開発されると、閖上のようなコミュニティがそうしたツールを活用することで、次に災害が起きてしまったときに命を助け、経済的損失を軽減するために役立てられるようになるのです。
災害に対するレジリエンスに関するこれまでの問題、プロジェクト、今後のコード・フォー・レジリエンスの計画については、www.CodeForResilience.orgをご覧ください。
英語原文はこちら:
Harnessing ICT tools for community disaster preparedness and recovery