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特集2025年2月6日

世界の貧困に関するデータ

The World Bank

国際貧困ラインの改定

世界銀行は2022年9月に国際貧困ラインを改定しました。2020年に新しい購買力平価(PPP)が発表されたのを受けたこの決定は、5月に発表されたものです。PPPは、国による物価水準の違いを調整し、異なる通貨を比較可能な共通の単位に転換するために使われる主要なデータです。新貧困ラインは、2017年のPPPに基づいて、これまでの1日1人あたり1.90ドルから2.15ドルに改められ、これに満たない人々が極度の貧困層とみなされます。

Q1. 世界銀行が国際貧困ラインを改定すると決めたのはなぜですか?また、なぜこのタイミングでの決定なのですか?

生活に要するコストは世界中で変動しています。このような変動を反映させるため、国際貧困ラインは定期的に改定する必要があります。そこで、2022年9月に、1日1人あたり1.90ドルから2.15ドルに改定されました。

Q2. 新しい貧困ラインを教えてください。また、この新基準を用いると、極度の貧困層は現在どのぐらいの数になりますか?

新国際貧困ラインは、2017年の物価を基に2.15ドルに設定されています。つまり、1日2.15ドル未満で暮らす人が極度の貧困層とみなされます。2019年には推定約6億4,800万人が極度の貧困状態にありました。

Q3. なぜ貧困ラインを引き上げるのですか?これまで広く使われてきた1日1.90ドルではいけないのでしょうか?

国際貧困ラインは、世界各地での生活に要するコストの変化を反映させるため定期的に改定されます。国際貧困ラインの引き上げは、2011~17年における低所得国での基本的な衣食住ニーズにかかるコストが、それ以外の国々と比較してどれだけ上昇したかを反映しています。つまり、2017年の2.15ドルは、2011年の1.90ドルと実質的に同じ価値があるということです。 

Q4. 今回の改定で過去の試算にはどんな影響がありますか?

以前の試算にもさかのぼって新基準を当てはめ、過去30年間の貧困削減の傾向を探りました。その結果、新基準でもやはり、1990年以降、貧困削減は目覚ましく進展していると言えますが、近年そのペースは落ちています。新基準に照らすと、極度の貧困は、サブサハラ・アフリカをのぞくすべての地域でわずかながら増加しています。サブサハラ・アフリカ地域では、物価レベルの低下により、2019年の極度の貧困層が3.2%ポイント減少しました。とはいえ、同地域は依然として極度の貧困層が最も多い地域です。詳細はブログをご覧ください。特にコロナ危機の影響により、長年の間に達成された進展の一部が損なわれているため、今後も人々が貧困から脱却し続けることができるよう、さらに力を注ぐ必要があります。

Q5. 購買力平価(PPP)とは何ですか?どのようにして決定されるのですか?

PPPを使うと、各国の所得や消費のデータをグローバルに比較できる数字に転換することができます。PPPは、世界各国の物価データを基に割り出されます。その年のPPPは、国際比較プログラム(ICP)の責任において決定されます。ICPは独立した統計プログラムであり、世界銀行の開発データ・グループの中にICPグローバル・オフィスが設けられています。

Q6. 我が国のプログラムや政策を策定する際、改定後の新貧困ラインを使うべきですか?

世界全体の極度の貧困率は、新PPPと新貧困ラインの採用後も大きくは変わらないかもしれませんが、一部の地域別、国別の割合は大きく上下するかもしれません。
しかし、本来、国際貧困ラインとは主に、世界の最貧層を把握し、世界銀行や国連をはじめとする開発パートナーが設定した国際目標に向けた進捗状況を測定するために使われるものであることに留意すべきです。他方、政策対話の土台として、また最貧困層に的を絞ったプログラムを行う際には、国別貧困ラインの方が適切です。

Q7. 金銭面に注目しすぎていませんか?貧困のほかの側面はどうなのでしょうか?

金銭面以外にも、教育、保健、衛生、水、電気など、数多くの指標が存在します。いずれも、貧困の現実を示す多くの側面を理解するために重要です。こうした指標は、貧困の金銭面の指標を補足するという大きな役割を果たしており、貧困層の暮らしを効果的に改善するために重要な意味を持ちます。そこで世界銀行が導入したのが、金銭面と金銭面以外の両方の指標で貧困を測定する多次元貧困基準(MPM)です。

Q8. 世界銀行が2030年までに極度の貧困を3%(またはそれ以下)まで削減するという目標を達成することは、新基準の下でも可能なのでしょうか?

コロナ危機により、極度の貧困から脱却し、一段と上を目指すことは、これまで以上に困難になるでしょう。極度の貧困を撲滅するために、各国には、慎重な政策判断が求められます。政策を通じ、より包摂的な成長をもたらすこと、最貧困層に恩恵をもたらす教育、保健、清潔な水、衛生、スマート・インフラへの投資を優先すること、ようやく手に入れた様々な進歩や資産を守り、干ばつや病気、経済的ショックを受けて再び貧困に陥ることがないようにすることが必要です。

Q9. 国際貧困ラインはどのように設定されるのですか?

まず、国別貧困ラインを確認します。ある国でそれ以下だと、最低限の衣食住のニーズが満たされなくなるというレベルが、国別貧困ラインです。当然ながら、裕福な国ほど貧困ラインは高く、貧しい国ほど低くなる傾向にあります。
しかし、世界全体の極度の貧困層の数を把握するためには、ただ単に各国の貧困層の数を足せば良いわけではありません。貧困層を定義する基準が国によってそれぞれ異なるからです。そのため、全ての国の貧困層を同じ基準で測定する貧困ラインが必要になります。
1990年、独立した研究者のグループと世界銀行は、最貧国数カ国の国別貧困ラインを検証し、購買力平価(PPP)を用いて共通の通貨価値に換算しました。PPPとは、ある国である価格で買える商品やサービスが他の国ならいくらで買えるかを示す換算レートです。 共通の通貨に転換すると、1980年代にはこれらの最貧国の内6カ国における国別貧困ラインが1人当たり1日約1ドル(1985年の物価で)になることが分かり、これが最初の国際貧困ラインである1日1ドルの根拠となりました。
2022年秋まで使われていた1.90ドルという国際貧困ラインは、1990年代の15の貧困国における国別貧困ラインを2011年のPPPベースで換算することにより割り出されました。これら15カ国が選ばれる根拠となったのは当時の限定的なデータでしたが、ほかの低所得国についても新たなデータが収集・分析された結果、基準となる国の数を増やすことができました。現在のIPLは、世界の最貧国28カ国の国別貧困ラインの中央値(2017年のPPPベース)として割り出されたものです。IPLの算出と改定のための方法の詳細はブログワーキング・ペーパーをご覧ください。IPLのこれまでの改定の経緯についてはFerreira et al. (2016)Ravallion et al. (2009)をご覧ください。

Q10. 2017年のPPPを使うことで、世界全体や地域・国レベルでの極度の貧困層の見積もりはどのように変わりますか?

2017年のPPPを使っても、世界全体の貧困層の数が大きく変わることはありません。ただし、地域レベルでは相当な違いが生じます。例えば、極度の貧困層はサブサハラ・アフリカ地域で減少した一方、その他の地域ではそれぞれわずかに増加しました。結果的に、世界全体ではほとんど増減はみられません。それでもなお、サブサハラ・アフリカ地域は極度の貧困層の数が依然として最も多い地域です。
2017年のPPPを使った場合、一部の国の推定貧困者数は大きく変化し、国別の順位が入れ替わっています。国レベルでのこうした変化はその大半が、物価データの質が向上したためのものです。世界全体および地域・国レベルでの貧困層に関する詳細は、ワーキング・ペーパーと、ブログ1ブログ2をご覧ください。

Q11. 国際貧困ラインが1.90ドルから2.15ドルに引き上げられたのに、世界全体の貧困層の数が実質的に変わらないのはなぜですか?

国際貧困ラインの名目値は2011年の1.90ドルから2017年は2.15ドルに引き上げられました。ただし、国際貧困ラインの実質的価値は事実上変わっていません。言い換えると、2011年に典型的な低所得国において1.90ドルで買えた商品やサービスは、2017年には平均2.15ドルかかることになります。

Q12. 世界の貧困削減の進捗状況を追跡するために、世界銀行はほかにどんな貧困ラインを使っていますか?

世界銀行は様々に異なる貧困ラインを用いて、金銭的貧困を測定しています。まず、国際貧困ライン(IPL)は、極度の貧困を測定するために使われており、低所得国の貧困測定に最も適しています。富裕国については、2つのより高い貧困ラインの方が適切です。具体的には、2017年のPPPベースで、低中所得国(LMICs)で1日3.65ドル、高中所得国(UMICs)で1日6.85ドルという設定です。2011年と2017年のPPPを使った算出方法の詳細については、国際貧困ラインはJolliffe and Prdyz (2016)、より高い貧困ラインはJolliffe ⓡ al. (2022) をご覧ください。
世界銀行はまた、貧困のより相対的概念を反映した社会的貧困ライン(SPL)も設定しています。SPLは、1ドルにその国の消費支出の中央値の半分を加えた値と設定されており、その値が国際貧困ラインを下回る場合は、国際貧困ラインが適用されます。このラインは、国が成長する(中央値が高くなる)のに伴い高くなります。2017年のPPPベースでの社会的貧困ラインは、1.15ドルにその国の消費支出の中央値の半分を加えた値と設定されており、 その値が国際貧困ラインを下回る場合は、国際貧困ラインが適用されます。

Q13. 3つの貧困ラインで貧困層の数が変わってくるのはどうしてですか? 

PPPが更新された結果、2019年(世界の貧困データが確認されている最後の年)における世界全体の極度の貧困層の割合は8.7%から8.4%に若干低下し、数にすると2,000万人減の6億4,800万人になります。2019年の貧困層の数は、低中所得国(LMICs)用の3.65ドルという貧困ラインに基づくと3,500万人の増加、高中所得国(UMICs)用の6.85ドルでは3億1,900万人の増加となります。6.85ドルのラインを使った方がより大きく増加するのは、高中所得国の貧困ラインが実質的に高くなっているからです。つまり、最後に国際貧困ラインを更新して以来、高中所得国が貧困層を定義するための基準を引き上げたため、世界でその基準に満たない人の数が多くなるのです。
国際貧困ラインが0.25ドル引き上げられたのになぜ世界の貧困者数の減少が小幅にとどまっているか疑問に感じられるかもしれません。それは、一部の貧困国において、個人の購買力の伸びが小幅だったからです。国際貧困ラインの実際の値が事実上横ばいであっても、物価は異なって表示されることに注意が重要です。

Q14. 国連の持続可能な開発目標(SDGs)の目標1.1は、世界銀行による更新後の国際貧困ラインが基準とされるのですか?

世界銀行はすべての場所であらゆる形での極度の貧困撲滅を目指すSDG 1.1の進捗状況を管理する役割を担っており、その際の基準には$2.15ドルの貧困ラインが使われます。 

Q15. 次にPPPデータが更新されるのはいつですか?

次は、2021年を基準年とするPPPデータの更新が予定されており、2023年に新しいPPPが発表されることになっています。

Q16. 2017年のPPPを使い始めたことで、2011年のPPPを世界の貧困測定に使うことはもうないのですか?

世界銀行は、報告書「貧困と繁栄の共有2022」の発表に当たり、2022年9月から貧困層測定の基準として2017年のPPPを採用することを決めていますが、「貧困と格差プラットフォーム」では引き続き2011年のPPPに基づいて貧困層を推定します。こうすることで、異なるPPPを使った貧困層の数を比較することが可能になります。

Q17. 新しいPPPデータに基づく国際貧困ラインの改定について、世界貧困委員会はどういった提言を行いましたか?

2015年、世界銀行はサー・アンソニー・アトキンソンが率いる著名な経済学者たちを集め、2030年までの世界の貧困の測定・モニタリングのための最も優れた方法について助言を求めました。2030年は、世界銀行が2大目標のひとつである極度の貧困撲滅の期限に設定している年です。世界の貧困測定のために使うデータと方法をいかに向上すべきかについて、「世界の貧困に関するアトキンソン委員会報告書」の中でいくつもの提言が行われています。同報告書は提言10として、世界銀行が2030年までは新たなPPPを用いて世界の貧困者数推定値を更新しないようにと述べています。アトキンソンがこのように提言したのは、それまでに更新されたPPPを使ったことで世界の貧困者数推定値が大きく変動したからです。
世界銀行は これを受け、提言に従う予定だとしましたが、国際比較プログラ務(ICP)の方法が安定したものになることでPPPの変更に実際の物価の変動が反映されるようになれば2030年までに新しいPPPを用いる可能性は残しました。
世界銀行内外の研究者は、2011年と2017年のPPPを比較した上でICPの方法に安定性が認められることで広く一致しました。そこで世界銀行は、2022年秋に世界の貧困層をモニターするにあたり2017年のPPPを採用することとしました。新しく2017年のPPPデータを使うという決定は、可能な限り新しく質の高いデータを使うという慣習とも一致しています。 

Q18. 国際貧困ラインが1.90ドルから2.15ドルに変更になった主な根拠は何ですか?

今回の国際貧困ライン改定は主に、2011年から2017年にかけての低所得国の購買力平価の変更(つまり、2011年から2017年における低所得国の物価が、それ以外の国々と比較してどれだけ変化したか)によるものです。国際貧困ラインの改定は、低所得国や国別貧困ラインのある国々の貧困ラインの実質的上昇によるものではありません。国際貧困ライン引き上げの要因についての詳細は、このワーキング・ペーパーをご覧ください。


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