第1回インタビュー(2013年3月8日)
馬渕俊介 保健スペシャリスト世界銀行アフリカ地域総局 国際協力機構(JICA)社会開発部プロジェクト担当、エチオピア財務省/USAIDアドバイザー、UNDP BOPビジネスアドバイザー(インドネシア)、マッキンゼー・アンド・カンパニー(日本、南アフリカ)マネージャーを経て世界銀行入行。マッキンゼーで得た民間経営のノウハウを生かしてナイジェリア、リベリアの保健医療システムの改革に従事中。東京大学教養学部卒業(文化人類学)。ハーバードケネディ行政大学院にて公共政策修士(学長賞受賞)、ジョンズホプキンス大学にて公衆衛生修士(上位5% ソマー奨学生、Student Recognition Award)取得。ジョンズホプキンス大学博士課程在籍中。東北大震災の復興を支援する海外向け寄付プラットフォームDonate Japan 立ち上げ。 |
今世界銀行でされている仕事内容を簡単に教えてください。
アフリカ局で、ナイジェリアとリベリアの保健医療システムの改革に携わっています。たとえば、ナイジェリアはアフリカの5人に1人の人口を占め、毎年7%で経済成長しているアフリカの大国である一方で、乳幼児と妊産婦の死亡数が世界の10%を占めるなど、保健医療システムが機能せず大きな問題を抱えています。例えば従来、医療現場で必要なものは中央・地方政府からトップダウンで補給されていましたが、世銀はナイジェリア政府とともにこれまでのシステムを転換し、現場のヘルスセンターや病院が提供したサービスの量と質(=結果)に応じて直接資金を得られ、その資金を活用して自分たちでサービスを改善していける仕組み、その活動を州・地方政府が後方支援する仕組みを作っています。このアプローチはヘルスセンターのサービス利用者数を9ヶ月で5倍以上向上させ、それに触発された政府が同様の仕組みを国全体で作ることを目指した「100万人の命を救う計画」を立ち上げました。私はそれを支援するチームのコアメンバーとして、この改革を成功させるために日々奔走しています。
世界銀行に就職した経緯を教えてください。
大学卒業後にJICAで働いて援助のさまざまなアプローチを学ぶとともに、結果を厳しく問う民間経営のノウハウを開発業界に持ち込む必要性を強く感じ、ハーバードケネディ行政大学院に通い、さらに民間の経営コンサルティング会社マッキンゼーで働きました。マッキンゼーの南アフリカ支社で働く中で、アフリカの保健医療の問題は、安価で提供できるはずの医療サービスが末端の人々に持続的な形で届かないという行政の経営とサービス提供のシステムの問題であることを確信し、この分野で民間の問題解決・経営ノウハウを生かしていくことを自分のミッションと決めました。この民間セクターからグローバルヘルス分野へのキャリアシフトの足がかりとして、日本世界銀行共同大学院奨学金プログラム(JJ/WBGSP)からご支援をいただいてジョンズホプキンス大学の公衆衛生修士課程に通い、知識を深めながら自分に一番適した就職先を探しました。世界銀行は、保健医療システムを改革するアプローチを先導しており、途上国に根を張って保健大臣の効果的なアドバイザーになりうる点、セクター横断的な知識を蓄積しており、それを問題解決に利用できる点、多くの資金を動員できる点などから、アフリカの保健医療システムを改善するための最適の組織ではないかと思い、日本人ミッドキャリア採用ミッションの機会を利用して、就職を決めました。
JJ/WBGSPを受けて留学した先での専門分野、学生生活について教えてください。(インターンシップ、フィールドリサーチ等あれば含む。)
(写真)留学中、ジョンズホプキンス大学のクラスメートと
私はキャリアシフトの足がかりとして二度目の大学院留学をしたため、修士課程の一年間でやることを明確に定めて臨みました。学業では、保健医療の知識を深めることに注力しました。一方で、早くから教授たちの研究チームに加わり、ビル・ゲイツ財団のコンサルタントとして、インドで展開されている革新的なエイズ予防活動の成功要因を研究し、研究内容を欧米の研究ジャーナルから出版しました。そのまま博士課程に進み、現在は世銀の仕事と博士課程の二束のわらじで研究を進めています。
学外では、学生委員会の副代表として、グローバルヘルスのリーダー達を招いたセミナーの運営をリードしました。また、在学中に東北大震災が起こり、アメリカからできることをとの思いから、Action for Japan Hopkinsという団体を立ち上げて寄付を募る一方、友人たちと海外向けの寄付先紹介サイトDonate-Japanを設立し、信頼できる団体に海外からの寄付が直接届く仕組みを作りました。その他、早くから就職活動を始め、その過程でグローバルヘルスの色々な人脈を広げることができました。
大学院で学んだことが具体的に今の仕事で役に立っていると思われるのはどのようなことですか。
私は貢献できる民間経営の知識やJICAなどでの経験はあったものの、グローバルヘルスに関する知識がなかったので、一年間でそれを多少なりとも詰め込めたことは、今の仕事をする上で本当に大きな役に立っています。保健医療システムの改革に取り組むためには、コミュニティが医療サービスを受ける際の需要サイドの障害を取り除く課題や、供給サイドのサービスの質を改善するための課題など、包括的な知識が必要になります。留学中に得られた包括的な知識は、私がこれまで他分野で得てきた経験・キャリアの点をグローバルヘルスにつないで強みにするための土台になってくれています。
世界銀行のような国際機関に将来就職することを希望する場合の、大学院選びについてアドバイスはありますか。
(写真)ナイジェリアにて、ヘルスセンター視察
自分が描く国際開発キャリアのストーリーの中で、今の段階で大学院で何を得たいかをつき詰めて考えることが一番重要ではないかと思います。私の場合は、一つ目の修士号取得先のハーバードケネディ行政大学院では、自分の可能性を広げることに注力したため、開発にとどまらない広い視野とスキルを身につける機会につながりました。一方で、二つ目の修士号となったジョンズ・ホプキンス公衆衛生大学院では、次のステップが明確になっていたため、必要な知識・経験を得ることと就職活動とに集中できました。
自分がどんな開発課題に対してどんな立場からどんなスキルを生かして貢献したいかがある程度明確に決まっている場合は、留学先の大学院にそれを深めてくれる教授がいるかどうかまで掘り下げて考えて、実際にコンタクトまでしてみることをお勧めします。また、その分野で就職を希望する機関と頻繁に仕事をしている教授がいるのは、大きな助けになります。たとえば私は、世銀出身の教授がメンターになってくれていたため、世銀での短期契約の仕事は、彼の紹介がきっかけとなりオファーを得ることができました。国際開発分野のキャリア形成は、自分の能力や経験をどう積み上げるかに加えて、有効なネットワークをどれだけ作り上げられるかでオプションの広がりが大きく変わるので、そのことも念頭に入れるといいと思います。
JJ/WBGSPをお薦めする理由があるとしたらそれはなんですか。
JJ/WBGSPは、提供してもらえる資金、年齢制限等の柔軟さ、参加している人々による途上国開発に特化したネットワークなどから、他に類をみない非常に貴重な奨学金プログラムになっていると思います。私の周りにはこの奨学金を受けて世銀を含む国際開発機関で活躍している日本人が非常に多くいますが、全員が素晴らしい活躍をしていて、とても励みになっています。また、私は運よく大学院から学費免除と生活費の補助をもらうことができ、世銀の奨学金には大学院がカバーしない部分を支援していただきましたが、それらがなかったら、条件面から他に支援を受けられる仕組みはなく、今のキャリアとつなげる研究活動にも制約が出た恐れがあります。
JJ/WBGSPへの出願書類作成時に特に気をつけた点はありますか。願書作成に関し、受験する後輩へのアドバイスがあれば。
(写真)ナイジェリアにて、ヘルスセンター視察
自分のこれまでとこれからの国際貢献のストーリーを、できる限り明確かつ大胆に書き切ってみることが重要と思います。大きな国際貢献の目標をもっていて、またそれを達成するための明確な計画があり、その計画を実行できる行動力があることを、願書の中でどのくらい具体的に示すことができるかが問われているのではないでしょうか。自分の中長期の計画を大胆に考えてみるいい機会になると思います。また、自分のこれまでの達成を問う質問には、漠然さをできるだけ排して、自分が何に対してどんな行動をして、その結果どのような変化を起こせたかを、具体的に書ければ書けるほど、インパクトと説得力が強まります。出願書類は、自分ひとりで考えていると煮詰まることが多いので、実際に奨学金をもらっている人やすでに留学経験がある人など、信頼できる数人に前もってじっくり見てもらって、アドバイスをもらうことを強くお勧めします。