特集

農業の生産高拡大・生産性向上とアグリビジネス

2011年1月14日

世界銀行グループの経験から得られた教訓
 

概要
 

世界的な食糧需要に応え、貧困を削減するためには、特に最貧国における農業生産高の拡大と生産性向上が不可欠である。今回の評価対象期間である1998年から2008年の間に、世界銀行グループは108か国の農業およびアグリビジネスに対し237億ドル(世銀グループ融資総額の約8%)の支援を行い、その対象分野は灌漑やマーケティングから研究・普及まで多岐にわたった。同時にこの期間は、借入国とドナーが共に、農業生産高拡大と生産性向上をあまり重視しなくなった時期でもある。

農業に十分な関心を向けなかった代償は、特に農業を基盤とする国を中心に、2007~2008年の食糧危機の際に明らかになった。この危機をきっかけに、世界銀行、国際金融公社(IFC)をはじめ、複数の多国間・二国間援助機関で、農業とアグリビジネスに対する注目が新たに高まり、この分野に対する融資拡大に拍車がかかった。世銀融資は、2008~2009年にかけて2.5倍に増えたが、この融資増加に伴い、本評価が結果達成の際に重視する分析分野の業務は減少した。本評価は、農業セクターにおける世銀グループの取組みの成功と失敗から得られた教訓を検証し、新たな関心の高まりが開発効果の向上につながることを目的としている。

農業およびアグリビジネス分野において、世界銀行プロジェクトが掲げる目的に対する評価、およびIFCの市場ベースのベンチマークは、東アジアおよびラテンアメリカ諸国、ならびに欧州の新興国において、ポートフォリオ平均以上の結果を収め、特に中国とインドでは長期間にわたり高い成功率を達成した。しかしサブサハラ・アフリカでは、世界銀行グループの支援実績は平均を大きく下回り、IFCのアグリビジネスへの関与もほとんどなかった。農業を基盤とする国々、特にサブサハラ・アフリカ諸国では、借入国側のコミットメントが一貫性を欠き、キャパシティも不十分だったため、世銀グループによる支援は十分な効果を上げることができなかった。世銀グループ内の職員、および内部調整の不足も、一因となった。また、政府からの財政支援が限られていたこと、農業関連のサービスやインフラの維持が困難であったことなど、持続可能な財源の確保が難しかった点も挙げられる。

世銀グループには、農業を基盤とする国々、特にサブサハラ・アフリカ諸国における農業生産高拡大と生産性向上に焦点を絞る一方で、農業向け融資の拡大を図ることができるという強みがある。この機会を活かすには、以下の取り組みにおいて一層の努力が必要となるだろう。

  • セクター別の支援連携による官民両セクターの支援の相乗効果の実現
  • 能力構築および知識交換
  • 天水農業の経験活用
  • 資金面の持続可能性の重視、およびジェンダー、環境・社会的影響、気候という分野横断的な問題の重視
  • グローバルレベル、地域レベルでの世銀グループの支援と、国レベルの支援の効果的な統合

世界全体で10億人が、依然として慢性的な貧困と栄養不良に苦しんでいる。こうした人々は農村地域に集中しているため、農業生産高拡大と生産性向上無しには、貧困削減およびミレニアム開発目標の達成は難しいとドナー・コミュニティは認識している。さらに人口、所得、畜産品消費量の拡大に伴い、2050年までに倍増すると見込まれる世界の食糧需要に対応するには、農業生産高の拡大が不可欠となる。天然資源が乏しく効率化の促進が欠かせない環境下では、生産高拡大が必須である。

本評価は、「World Development Report 2008: Agriculture for Development, World Bank(邦訳:世界開発報告2008:開発のための農業、世界銀行)」の中で分類法として開発された経済分類を用いている。農業中心国カテゴリ(サブサハラ・アフリカの大半の国々はこれに該当)では、農業セクターの発展が経済成長と貧困削減にとって不可欠であるにもかかわらず、現代的な投入資材の利用や、灌漑、コミュニケーション、輸送手段へのアクセスが限られているため、生産性は低い。貧困削減を達成する上で、こうした制約軽減に向けた世銀グループの支援が重要となる。

新興国カテゴリ(主に、南アジア、東アジア、中東・北アフリカの国々が該当)では、経済成長に対する農業セクターの貢献は、農業中心国カテゴリほど重要ではなく、土地生産性と労働生産性ははるかに高いものの、貧困は今なお圧倒的に農村に集中している。これらの国では、貧困を削減し、都市と農村の格差を縮小するために、農業セクターの成長に向けた世銀グループの支援が必要とされている。

都市カテゴリ(主にラテンアメリカ、ヨーロッパ・中央アジアの国々)では、貧困はもはや農村中心の問題ではなく、経済成長に対する農業の貢献度は比較的小さい。しかしこのカテゴリにおいても、農業セクターにおける世銀グループの支援は、経済発展、さらには生産性の持続的向上のための新技術導入に貢献できる。

畜産品とバイオ燃料に対する需要の拡大を受け、民間セクターが飼料用穀物およびバイオ燃料用のサトウキビ、非食用農作物の栽培に投資して利益を上げる機会が増えている。しかし今後は、水の確保が次第に制約となるだろう。気候変動によって水源が一層変化していく可能性がある上、干ばつと洪水が頻発して農業システムにとってより負荷がかかるからである。

 

世銀グループ融資
 

1998~2008年の間に、世銀グループは108か国の農業およびアグリビジネスを対象に約237億ドルの支援を行った。このうち76%に当たる181億ドルは世銀の支援、残り24%に当たる56億ドルがIFC の支援であった。加えて2009年には、世銀が38億ドル、IFCが16億ドルの拠出をそれぞれ承認した。また世銀とIFCは、借入国に対して非融資サービスも提供し、さらに世銀は、農業セクターにおけるグローバル・プログラム、地域プログラム、パートナーシップを支援した。

農業分野に対する世銀支援のうち、農業を基盤とする貧しい国における農業生産高拡大と生産性向上に焦点を絞った支援はごく一部に過ぎなかった。世銀の戦略的重点対象は1990年代初めに、狭義の農業重視の方針から、より広く貧困と農村開発を重視する方針へと転換した。これにより、農村セクターにおける世銀支援プロジェクトの焦点は、農業生産の域を超えるようになった。例えば、農村プロジェクトの多くはコミュニティ主導型開発(CDD)を採用したが、CDDアプローチにおいて農業開発は数多くの優先課題のひとつと位置づけられている。この傾向はサブサハラ・アフリカで特に顕著で、同地域は、農業生産性拡大と生産性向上に的を絞った農村プロジェクトの占める割合が世銀地域の中で最低レベルだった。IFCの投資はアグリビジネスの成長と発展に的を絞っていたものの、投資先はラテンアメリカ、ヨーロッパおよび中央アジアなどの都市化の進んだ国や新興国に集中した。

農業向け世銀融資のプロジェクトが掲げる目標の評価は、他のセクター向け融資とほぼ同水準で、ヨーロッパ・中央アジア地域が世銀全体の平均よりも高かったが、サブサハラ・アフリカの評価は著しく低かった。サブサハラ・アフリカの農業を基盤とする国では、道路や市場インフラの不備、未発達の金融セクター、そして天候関連リスクと疾病リスクの高さなど、農業開発の環境は比較的整っていないが、それに加え国家の能力やガバナンスも脆弱である。世銀がこうした借入国に関与するために、数ある中でも例えばCDDによる支援などの代替手段を模索している理由としては、プロジェクト・パフォーマンスの相対的な低さ、ガバナンスの諸問題、さらに多くの国の農業に対する関係者の関心の低さなどがある。

同様に、アグリビジネスに対するIFC の投資もラテンアメリカ、カリブ海地域、ヨーロッパ・中央アジアで平均を上回る開発成果を上げた一方、サブサハラ・アフリカでは低迷している。ラテンアメリカ・カリブ海地域、ヨーロッパ・中央アジア地域における成功は、販売業者と加工業者を一体化させたモデルへの支援が功を奏した結果であり、IFC の支援対象の中には、現地企業や地域企業を設立したところもあれば、南南投資に従事するところもあった。一方、サブサハラ・アフリカにおけるIFC の関与と実績では、困難なビジネス環境や現地起業家の不足、投資の潜在可能性の低さ、市場アクセスの不備、そして小規模スポンサーとの直接連携が芳しくない結果となった経験が障害となってきた。このためIFCは、外国のスポンサー、および輸出志向の事業や現地・地域のニッチ・ビジネス(例えばヤシ油やゴム)を重視するようになった。

本評価では、将来に向けて教訓を特定する目的から、次の6分野における世銀グループの貢献を評価している。

  • 灌漑・排水
  • 研究・普及
  • 信用供与へのアクセス
  • 土地へのアクセスと土地の諸権利の正式認定
  • 道路と市場インフラ
  • 市場とアグリビジネス

灌漑・排水では、物的インフラに対する世銀グループの支援により、農民が水を利用しやすくなり、その結果、農業生産性が向上した。だが運営と維持に必要な資金を安定的に確保する態勢が整っていないため、持続可能性の問題が生じた。世銀グループには、支援対象国政府による政治的・制度的に実行可能な費用回収メカニズムの設計・実施への援助に向けたさらなる資源の配分、借入国支援による官民パートナーシップ成功の環境づくり促進、民間セクターの役割拡大の促進、結果に対するより入念なモニタリングなどが求められている。また水の効率的利用とそのモニタリングにも一層注目する必要がある。世銀の水関連案件に関する最近のIEG評価(IEG 2010f)においても、こうした問題により重点的に取り組む必要性が指摘されている。さらに、天水地域における水管理の問題に取り組むに当たり何が効果的かを評価できるよう、またその開発に戦略的に貢献するため、そうした地域の水管理の取組みを個別に追跡することが世銀に求められている。

世銀およびIFCは共に、研究・普及を支援してきた。世銀は、地球規模のプログラム(特に国際農業研究協議グループ:CGIAR)、借入国の公共システム、他のステークホルダーとのパートナーシップ協定を支援し、IFCは、アグリビジネスの販売・加工業者への資金とアドバイザリー・サービス(支援を受けた販売・加工業者が契約農家を支援する仕組み)を通じた支援を行っている。過去の評価では、CGIAR各センターと各国のプログラムのつながりの弱さが指摘されており、CGIAR各機関の研究結果が取りまとめられてその国の世銀プロジェクトに反映される必要があった。研究・普及分野における世銀支援では、政府の資金拠出が不十分な上、コスト回収も進まないため、持続可能性が問題となっているが、IFCの支援を受けた販売・加工業者は、農民に支払われる作物代金からの費用回収ができている。

世銀グループはまた、設立間もないアグリビジネス・テクノロジー企業が、独力でまたは公的研究機関とのパートナーシップを通じて力強く成長する状況を、各国政府が作り出せるよう支援することも可能である。世銀グループの支援は、投資と知識サービスを組み合わせた上でパートナーシップが加わると、より良い結果を生み出してきた。世銀支援の結果としてどれほどの改良技術が創出または導入されたかを検証する証拠は限定的であるため、プロジェクトのモニタリングと評価(M&E)を強化する必要がある。

信用供与へのアクセスは、投入資材を購入するための短期資金、あるいは土地改良に投資するための長期資金のいずれに充てるにせよ、農業の生産性向上に向けた投資において大きな制約となっている。世銀およびIFCは共に、信用供与拡大と効率性向上において重要な役割を担っている。農村における信用供与の支援が期待通りの成果を上げられなかったため、世銀は農業向けの信用供与からより広い農村への融資へとアプローチを転換し、金融機関が農村地域に展開するための能力強化を重視するようになった。この広範なアプローチは農業セクターの利益につながっているようではあるが、具体的に農業向けの信用供与に充当された支援額を確定することは難しい。プロジェクト期間を超えた持続可能性は今なお課題として残っており、金融セクター支援と農業貸出との相乗効果を高める必要がある。また農業セクターにおける天候・価格関連のリスクへの対処には、農業と金融の両セクターおよび災害・リスク管理向け融資の間の相乗効果も求められている。

IFCは信用供与へのアクセス促進のため、販売・加工業者への投資、貿易金融、プライベート・エクイティ、ホールセール銀行業務、指数保険商品を活用してきた。こうしたアプローチの一部は、小規模農家の生計改善に効果を発揮している。例えば、大手の販売・加工業者経由で、時にはこれと並行して商業融資や買戻し契約を伴う形で、何千人もの農民に少額づつ資金を提供することで、大きな変化をもたらすことができる。

土地へのアクセスと土地の諸権利の正式認定は、貧困削減、農業生産高拡大、生産性向上に貢献すると考えられ、世銀およびIFCは近年、この両分野 ― 特に土地管理 ― に積極的に取り組んできた。しかしながら、こうした取り組みが農業生産性に与える効果に関しては、特に土地管理について、効果を示す証拠が少ない。これらのプロジェクトでは通常、農業生産性がモニタリングの主たる対象になっていないためだ。世銀の農業ポートフォリオでは生産高と生産性が重視されているため、こうした影響を一層重点的に評価していく必要がある。農業開発の多面性を考慮すれば、場合によっては、生産性拡大のために土地管理を他の支援サービスと組み合わせることが重要となるであろう。

世銀は、農道などの道路と市場インフラの建設に広く携わってきた。また世銀とIFCは共に、倉庫、港湾、貨物運送業者、貿易基盤などのロジスティクスおよび市場インフラに投資してきた。入手可能なデータを分析すると、こうしたプロジェクトは平均して高い成功率を示しているが、サブサハラ・アフリカではその傾向は低い。サブサハラ・アフリカの低い市場アクセス率を改善するため、世銀およびIFCは公共投資と民間投資の双方を通じ、同地域での輸送および市場インフラの開発・整備を支援する革新的な方法を模索し続ける必要がある。

最後に、世銀グループはより幅広く、ものごとを達成できる環境を整備するため、借入国に様々な支援を提供してきた。具体的には、世銀の開発政策融資のほか、小規模生産者と結びついたアグリビジネスの開発などを通じた投入・産出市場へのアクセスの提供などである。世銀のこうした支援が効果を上げたケースでは、分析活動と助言活動を出発点としていることが多い。農業開発には適切な政策と望ましいビジネス環境が不可欠である。その意味では、自由化とグローバル化を背景に、過去20~30年間の進展は目覚ましかったが、依然として課題が残っている。世銀とIFCが補完的な役割を担っていることを認識し、さらに徹底した調整が図られることが望ましい。

 

制度面の要因
 

コミットメント、能力、ガバナンスなど、各国の制度面での問題は、農業分野における世銀グループの取組みのレベルと有効性に大きく影響する。中国やインド(共に1950年代から1980年代にかけて農業セクターへの投資を劇的に拡大)をはじめ、新興国や都市化の進んだ国の中には、農業開発への強いコミットメントを数十年にわたり維持してきたところもある。また中・東欧諸国の一部では、1990年代初めの経済体制の移行に伴い、農業開発へのコミットメントが急激に高まった。だが、農業を基盤とする国の多くでは、こうしたコミットメントが最近まで比較的低いままだった。戦後の開発が工業化と都市化に偏って進められたことも原因のひとつである。さらに能力とガバナンスに著しい制約がある場合、プロジェクトが本来の目標を達成することが困難となる。

世銀グループ内の制度面での制約が、特にサブサハラ・アフリカおよび農業を基盤とする国で、農業開発支援を妨げる要因となってきた。最近まで、世銀とIFCの戦略では農業生産高拡大と生産性が優先されていなかった。運輸、金融、農業といったセクター間の潜在的な相乗効果が、世銀およびIFC 内部で見逃されることもあった。また世銀およびIFC が互いに果たすべき官民セクターでの補完的役割の相乗効果もまだ十分には実現されていない。農業は本質的に民間セクターの領域であるが、民間セクターが力を発揮するためには、最低レベルの公的部門の能力が必要とされる。官民両セクターを支援するために、世銀グループの各機関が相乗的に動くことが理想的である。

未確認データではあるが、量的・質的な検証によると、過去10年間に世銀職員の農業関連スキル(例えば政策分析や借入国との対話のスキル)が、特にサブサハラ・アフリカで低下した。またIFCではアグリビジネスのスペシャリストの数がニーズを満たしていない。

これらの要因が合わさった結果、サブサハラ・アフリカにおける世銀プロジェクト結果があまりおもわしくなく、プロジェクトのエントリーポイントと監視段階での質の低下が認識されるに至った。また、こうした一連の要因により、最近施行された「農業行動計画2010~2012年」の実施状況と、将来のサブサハラ・アフリカにおけるIFCのアグリビジネスの存在感強化が抑制されることが懸念される。IFCが最近取り組んでいる地方への権限委譲は、不足気味の専門知識をさらに分散することになり、こうした状況をより深刻化させるリスクがある。

モニタリングと評価(M&E)は投資および開発政策融資で引き続き脆弱であり、世銀のデータ・システムと分析システムは必ずしも農業分野の取組みすべてを効果的に追跡しているわけではない。水利用の効率性、技術の導入、農業生産性といった分野の成果や結果は、世銀とIFCのいずれにおいても完全には報告されていない。そのため、プロジェクトの有効性の評価が制約を受け、組織としての学習が妨げられている。

世銀グループの分析業務は重要な役割を果たしており、特に最貧国においては、可能な限り融資と関連させた形で行う必要がある。問題を特定して政策助言と融資に情報を提供する上で、分析は極めて重要である。農業分野での世銀の分析・助言活動(AAA)は概して信頼できる質を維持しており、AAAの情報を得た上での融資は、得なかった融資よりも高い成果を上げている。だがエチオピア、ガーナ、ギニア、ネパールなど、国際開発協会(IDA)が支援する最貧国の一部では、過去数年間に農業セクターでのAAAはほとんど実施されていない。

IFCのアドバイザリー・サービスは主に供給主導であり、関連するアグリビジネス・サブセクターはあまり対象となってこなかった。アドバイザリー・サービスが投資と結びついて成果を上げた事例は、ごく少数にとどまった。

ジェンダーと環境は世銀グループにとって分野横断的な優先課題であり、農業とアグリビジネスはジェンダー・エンパワーメントおよび環境の持続可能性に大いに貢献し得る。世銀では、ジェンダーの問題を、プロジェクトの実施段階よりも設計段階において、より重視してきたが、どちらの段階でも一層重視することが必要である。IFCは、アグリビジネスにおけるジェンダーの追跡項目が就業している女性の数に限定されているため、複数の指数を加えてより充実したデータを揃える必要がある。

環境に関しては、世銀の支援プロジェクトは概ね世銀の環境セーフガード・ポリシーに準拠しているが、セーフガードと環境分野の成果に関する監視と報告は必ずしも十分とは言えない。世銀が行うプロジェクトは、気候変動の影響に対する各国の準備態勢を改善させる可能性をもっている。気候変動問題と農業生産の直接的な関連性が世界各国で優先課題として浮上しているが、借入国がその実態を見極めやすくするために、焦点を絞った分析作業が重要になるだろう。

IFCの定める「パフォーマンス基準」は、IFCが農業セクターに提供する追加性の主要素とみなされてきた。ただし同基準の実施に当たっては、サプライチェーンにおける環境・社会的リスクの特定・対処のために、一段と堅固なアプローチが必要である。コンプライアンス・アドバイザーおよびオンブズマンに提出されたコメントに照らすと、アグリビジネス・サプライチェーンの問題の管理が十分でないことは、パフォーマンス基準適用前のプロジェクト4件および適用後のプロジェクト2件で明らかであり、IFCの様々な投資の影響を被る個人やコミュニティが懸念する通りである。規制の弱い地域での環境破壊を懸念する声が高まっている現在、アグリビジネスが環境に与える影響に取り組むことは、引き続き極めて重大な課題である。

IFCは当初から関っているものの、一次産品関係者で構成されるラウンドテーブルはサプライチェーン認証について国際的に認められる基準の策定には至っておらず、この分野には今後一層注目する必要がある。サプライチェーン全体にわたって食糧とアグリビジネス生産の持続可能性を確保するため、同ラウンドテーブルは厳格な認証システムを開発する必要がある。こうしたシステムがひとたび完成すれば、IFCはプロジェクトごとの環境・社会的要件についてラウンドテーブルの認証に照らすことができ、この認証をグローバル基準として利用を促すことが可能となるだろう。

 

提言
 

本評価の重要な提言は次のとおりである。

農業およびアグリビジネス向け融資の近年の拡大を最大限に生かすため、世銀グループは農業を基盤とする国、特にサブサハラ・アフリカ諸国において、農業生産高拡大と生産性に対する支援の有効性を高める必要がある。

支援ニーズが最も大きく成功が難しい国・地域は、農業を基盤とする国、特にサブサハラ・アフリカ諸国である。他の国・地域にも重要なニーズがあり、グローバルな食糧生産に対する需要拡大にも応じなければならない中、世銀グループはこれらのニーズにも引き続き支援を提供することが求められている。ただし、最貧国における有効性の改善が最重要課題である。

本評価の結果から、次の3つの分野における具体的な提言が導かれた。

1. 相乗効果と補完性

灌漑・排水、農業の研究・普及、信用供与へのアクセス、土地へのアクセス、運輸インフラ、政策環境など、生産性を高める領域では、補完性と相乗効果が有効性向上の主たる要因となる。これらの補完性をより効果的に活用するために、以下を提言する。

  • 官民パートナーシップに対する支援や、農業を基盤とする国で中小の現地企業をより効果的に活用するために、販売業者と加工業者を一元化させたモデルを導入するなど、サブサハラ・アフリカにおけるIFCの関与を強化する。
  • 世銀グループ全体で農業とアグリビジネス・サプライチェーンの専門家を結ぶ知識ネットワークを構築し、世銀とIFC内部のセクター担当部門間や世銀グループ全体でのコミュニケーションと協力態勢を強化する。
  • CGIARの研究をはじめとするグローバルな取り組みや地域的な取り組みが確実に支援対象国の利益となるよう、パートナー間の連携を促進して途上国同士の知識交流を奨励する。

2. 知識と能力の構築

能力強化が重要であること、また分析業務が問題を浮き彫りにして認識を高めるために有効であることは ― 特に能力が不十分な場合 ― これまでの経験から明らかである。

  • 農業を基盤とする国における世銀の分析・助言活動とIFCのアドバイザリー・サービスを、質・量ともに十分なレベルに保ち、これらを融資に緊密に結びつけ、さらに関係者のコミットメントを確保し、生産チェーン関係の制約に対処する。
  • プロジェクトのモニタリング・評価(M&E)枠組みが適切であるかどうかを事前に確認するメカニズムを確立する。その際、明確で妥当、かつ現実的な目標を設定し、徹底した費用便益分析を行い、適切な指標を用い、十分な基本データを駆使する。
  • (融資拡大も踏まえ)人材基盤とスキルの不足を見直し、農業セクター、特に農業を基盤とする国を担当する世銀職員とIFC職員の専門性や政策スキルの向上に向けた戦略的計画を策定・実施する。

3. 効率性と持続可能性

農業分野への資金フロー増加による効果は、効率的な資金活用、資金面、社会面、環境面における投資の持続可能性に影響される。

  • 中期支出計画に対する世銀グループの支援を増やし、業務やその維持のための資金を十分に確保する。また借入国と共に、灌漑、運輸、研究・普及サービスのために持続可能な資金 ― 費用回収がある場合はこれも含む ― を確保する。
  • 天水地域における水管理と農業生産技術の経験を評価し、将来の世銀グループ支援に情報を提供する。
  • 世銀とIFCの農業支援において、ジェンダーの問題を適切に中心的課題として組み込み、モニターする。
  • IFCのパフォーマンス基準を、主要なサプライヤのサプライチェーン(支援対象者の影響力が及ぶ範囲で、二次的サプライヤーのサプライチェーンも)において、重要な生物多様性をはじめ環境面および社会面にも拡大して適用する。また国際的に認められている一次産品認証システムの開発と応用に対するIFCの支援を拡大する。



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