Toru Shikibu
広島県出身。東京大学教養学部、東京大学大学院を卒業後、大蔵省に入省。経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development:OECD) 、長崎大学の学部長、阪神・淡路復興対策本部などさまざまなキャリアを積み、2007年より現職。
広島県出身。東京大学教養学部、東京大学大学院を卒業後、大蔵省に入省。経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development:OECD) 、長崎大学の学部長、阪神・淡路復興対策本部などさまざまなキャリアを積み、2007年より現職。
現在は世界銀行の業務全般の運営に対して責任を負っている理事会において、日本を代表する立場から意思決定に参加しています。理事会の議長はロバート・B・ゼーリック総裁です。24名の理事のうち5名は5大出資国によりそれぞれ任命され、残りの理事はその他の加盟国から選出されています。新幹線に代表されるように、戦後日本の復興は世界銀行に支えられた面がありますが、他方日本政府は世界銀行に多額な資金を提供してきました。このような貢献を反映し、世界銀行における日本の投票権はアメリカに次ぎ、第2位の株主国となっています。日本は世界銀行に出資することで、間接的に開発途上国に対し長期かつ低利の融資を行っているんです。
世界銀行の理事であると同時に日本政府を代表する立場でもあるので、世界の中の日本の立場と役割については常に頭にありますね。多額の資金供出国として世界全体の経済協力の中で相応の役割を果たさなくてはいけない。さらに、本当に日本の政府開発援助(ODA)というのは意味があるのか、これだけの金額を出す必要があるのか、そういった議論をする際に、やはり海外でこれだけ評価をされている、海外において日本はこれだけのプレゼンスを持っているということも示さなくてはいけません。その意味でも、「国益」という言葉は今あまり一般受けしないかもしれませんが、常に国益を考えて仕事をしていると言えますね。
金融機関でもあり、開発機関でもある世界銀行では、各国の発言力は常にバランスを保つ必要があります。第二位の株主国として、当然、日本の発言権及びそれに見合った職員の人数は重視されるべきです。ところが、世界銀行の全職員のうち、日本人の占める割合は1.3%。プロフェッショナルと呼ばれる専門職員でも2.3%です。これではあまりにもアンバランスだということで、増やしていくべきだという声はあちこちから上がっています。世界銀行のガバナンスや援助政策に与える日本の影響力は、限られた日本人職員だけでは限られてしまうでしょう。ただし、単純に数が増えればいいというものでもなくて、入行した方々が質のいい仕事をし、日本の立場を上昇させることもまた重要なんです。
英語で仕事をしなければならない、海外での仕事が求められる、基本的に新卒は取らず、経験者を採用するなど、国際公務員という仕事が日本社会の就職のシステムと相容れない部分があるのは事実でしょう。しかし、それでもスケールの大きさ、やりがいなど、この組織でなければ味わえない仕事がたくさんあります。ぜひ志の高い日本の若い人たちに、世界銀行を目指して欲しいと思います。日本が国際社会において、大きな責任を有する国だという事をぜひ実感して頂きたいですね。
高校生のときに家族に連れられて1年アメリカで生活したんです。当時は留学から戻ってきて元の学年に戻るシステムなどなかったので、高校は4年かけて卒業しました。大学には、通常の4年に加えてイギリスに留学し、大学院にも行ったので合計7年もいたことになります。元々は理科系だったんですが、外交官志向の学生や国際関係に興味を持っている学生に感化されて、国際開発に興味を持ちました。
就職は、もともと最初は役所に行きたいとは思っていなくて、ジャーナリスト志向だったんです。しかし、大学に7年もいると就職活動の際、色々な制約があって受けられるところが限られてくる。比較的門戸が広かったのがマスコミと公務員だったんですが、いくつかの面接を経て、後輩に誘われて受けた大蔵省に興味を持ち、入省を決めました。国際的な広がりがあり、パブリックな仕事ができるというところが決め手でしたね。
与えられた仕事に興味を持ち、やりがいを見つけよう
大蔵省に入省後、最初に配属された主税局は広く税金を集めて配分するところ。自分ではまったく覚えていないんですが、入った時の自己紹介で「国際開発の仕事をやると思っていたのに、こんな辛気臭いところに来るとは意外でした」というようなことを言ったらしいんです(笑)。しかし、今思えば辛気臭いなんてとんでもない!本当に意味のある、面白い仕事をやらせてもらっていたんですね。
入省して2年後にワシントンDCの米州開発銀行(Inter-American Development Bank:IDB、中南米を対象とする国際開発金融機関)に赴任し、その後も税務署長や、在英大使館公使、長崎大学の教授(平成7年、長崎大学経済学部学部長に就任し、同学部の大学院研究科設立に貢献)など色々な仕事をしてきましたが、キャリアを重ねるにつれて、種類は違えど、どんな仕事もやりがいがあって面白いということが段々とわかるようになりました。そのためにはまず、与えられた仕事に興味を持ち、知ろうとすることが重要。今は与えられた仕事に邁進することが自分の幸せです。私は役人には珍しく、国際関係に特化したキャリア(在外4ポスト通算13年を含め25年)を歩んできましたが、その時その時で、自分の役割と任務を果たすことを心がけてきました。
若い人たちには、大きな世界を見て、夢を持って欲しいと思います。いろんなことに興味を持ち、のびのびとやってほしい。そして、国際的な仕事の場面で求められる、広い意味でのコミュニケーション能力を身につけて欲しいですね。コミュニケーション能力には2つあると私は思っていて、1つは正確な語学力。英語で仕事をするということは、外国人と友達になって仲良くできるということとはまったく別の問題です。例えば理事会などでも、きちんとした英語が使えないと、意見がどうこう以前に相手にもされない。日本は第二の出資国として理事会ではっきりと発言し、政府の意向を明確に反映させなれければなりません。このような議論の際にも、論理的に意見を説明し、相手を説得するコミュニケーション能力が鍵となります。そして、適切な英語で論理的に説明するには、まずは学校の英語をきちんとやること、基礎をしっかり身につけることが何よりも大事です。応用は後からいくらでもできるはずですから。
もう1つは、対話能力です。自分の言いたいことがどれぐらい相手に伝わっているかを、相手の反応も見て理解しながら、その上で正しく自分の意見を伝える能力。例えば、緊迫した理事会の場で、用意した文章を読みあげるんじゃなくて、ジョークを交えたコメントをすると、緊張がほぐれるのでよりすんなりとメッセージが伝わる。これは生のコミュニケーションを通して学んでいくしかないので、若い人たちにはぜひ今から意識して、人との対話でそういった能力を高めていってもらえればと思います。
もうひとつ伝えておきたいのが、国際関係の仕事につきたいと思っているならば自分の専門分野を決めるということ。例えば「国際関係の勉強をしてきました」と言われても、ざっくりとしすぎていて何に興味があるのかわかりません。世銀が求めている人材とは、水とか環境あるいは教育、保健、医療など、各分野で深い専門知識を有する人材ですが、日本人の志願者の多くは、どちらかというといわゆる開発経済一般についての専門家、ジェネラリストである傾向があります。これでは需要と供給のミスマッチが生じてしまいます。専攻にしても何にしても、何を自分の柱としてやっていくのかをフォーカスして、「自分はこの分野の専門家になるんだ」という意識を持って将来を見据えて欲しいですね。近年の日本は、留学生の減少や、全般的に内向きだと言われていますが、自分の興味ある分野を世界レベルで挑戦し、夢をあきらめず、大きな視野でやりがいのあるキャリアを形成して頂きたいと思います。