カーボン・クレジットを通じたフンボ山の再生
京都議定書のクリーン開発メカニズム(CDM)の下で、各国は森林再生・植林プロジェクトを進めることでカーボン・クレジットを得ることができます。フンボ再生プロジェクトの場合、2017年までに33万8000トン超のカーボン・クレジットが貯まる予定で、それを販売することができます。
世銀のバイオカーボン・ファンドはそのうち約半分を買い取ることで、土地とカーボン・クレジットを所有する現地コミュニティに新たな所得の流れを生み出します。さらに、コミュニティは、残ったカーボン・クレジットを販売し、プロジェクト対象地域の指定植林地の木材を使った製品ならびに蜂蜜や飼料などを販売することで利益を上げることができます。これは、CDMという複雑な制度の下であってもカーボン・クレジットをアフリカのために活用できることを示すもので、他のアフリカ諸国に希望を与える成功事例です。
「今のところ、アフリカはCDM登録プロジェクト全体の2%未満占めるに過ぎませんが、アフリカ地域で土地利用や森林分野のプロジェクトを推進することが、現状を変えるためのカギです。そうでなければ、ポスト京都の気候枠組みがアフリカ諸国の支持を得ることは難しいでしょう」と世界銀行持続可能な開発(アフリカ地域)担当局長インガー・アンダーセンは指摘します。
「その意味で、このプロジェクトの登録には特別な意味合いがあります。このプロジェクトは、アフリカ地域における土地利用と森林のイニシアティブを拡大するようプロジェクト開発者を奨励し、ひいてはアフリカ諸国がカーボン市場の拡大によって生じる機会の恩恵を受けられるようにする一方で、現地コミュニティに対し社会、経済、環境面でさらなる恩恵をもたらすことになるはずです」
第2回アフリカ・カーボン・フォーラム
アフリカ地域におけるCDMプロジェクトの件数を増やすという課題は、2010年3月3-5日にケニアのナイロビで開かれた第2回アフリカ・カーボン・フォーラムにおいて中心的議題として取り上げられました。同フォーラムは、世界銀行が国連および 国際排出量取引協会 (IETA) と共催したものです。
同フォーラムには1,000人以上が参加して、資金調達、経験や専門技術、土地登記やモニタリングといった面での課題、さらにはCDMルールの複雑さなど、温室効果ガス排出削減のためのプロジェクト開発の障害について話し合いました。.
「アフリカにCDMプロジェクトがほとんどないのは、ひとつには、能力不足や、CDMやアフリカで何をすべきかについての理解がないためです。だからこそ、我々の方からここに来たのであって、アフリカがこちらに来ると期待すべきではありません」と、IETAの会長兼CEOのヘンリー・ダーウェントは述べています。
アフリカが直面する特有の課題として、温室効果ガス排出が比較的少ないがためにCDMプロジェクトが大量には開発されて来なかったという事実に伴うものがあります。プロジェクト開発者は、アフリカよりも「目標を達成しやすい」ほかの地域に集中してきました。スタートが遅かったために、温室効果ガス排出削減やプロジェクトの経験に関する議論が全体としてあまりされていません。民間セクターが参加していない上に、大半のアフリカ諸国では政府に代わって強力な主導権をとる機関がないことや、カーボン・プロジェクトのリスク評価に精通していない現地の銀行が全体として融資に乗り気でないことなどにより、CDMプロジェクトの開発が遅れています。
成功事例
覚悟を持って臨めばどれだけのことが達成できるかを示す例として、ワールド・ビジョン・エチオピアと世銀は、アフリカ・カーボン・フォーラムでの記者会見においてフンボの森林プロジェクトを紹介しました。フンボ山では、現地の人々やワールド・ビジョン代表、およびエチオピア森林省と共に、一帯を持続的に管理し、森林再生を進めるため7つの森林協同組合が設立されています。
フンボ・プロジェクト対象地域の90%以上で、農家管理型森林再生(FMNR)というテクニックが使われています。FMNRでは、過去に切り倒されたもののまだ生きている切り株から新たに木を育てることを奨励しています。協同組合は、この方法を使って広大な「地下森林」を地表の森林再生に役立てました。絶滅危惧種も含めた多くの貴重な天然林種が再生され、生きた切り株のない地域では、苗木が森林再生のために使われました。
フンボ再生プロジェクトの立ち上げ以来、2,700ヘクタール超の荒地(薪や炭、飼料のため継続的に伐採された土地)が、再生され保護されてきました。
コミュニティの人々にとって、かつて岩だらけの不毛の斜面だった場所が広範囲にわたって次々と緑に覆われていく様子はうれしい驚きです。再生プロジェクトは、蜂蜜や果物など関連製品の生産拡大につながり、家計の足しとなっています。土地管理の改善によって草も生育状況がよくなり、刈り取られて家畜の飼料として販売され、追加所得をもたらしています。天然林の再生は、この土地ならではの数多くの種にとって重要な生育環境を提供し、土壌浸食や洪水を緩和すると期待されています。
森林保護区は現在、大気中の温室効果ガスを吸収・貯蔵する「炭素シンク」の役割を果たしており、気候変動の緩和に貢献しています。このプロジェクトは、30年間に大気中から88万トンの二酸化炭素を削減する見込みです。
ワールド・ビジョン・オーストラリアのCEOティム・コステロは、フンボ天然林再生支援プロジェクトは貧困緩和の一方で気候変動にも対応するなど、森林再生の取り組みとして極めて大きな成功例だと述べています。.
「ワールド・ビジョンは20年以上にわたり貧困コミュニティと協力して、環境面で持続可能なプロジェクトを実施し、雇用を創出し貧困を削減してきました」と同CEOは言います。「カーボン・クレジットで得られる収入はうれしいボーナスですが、ほかにも、気候変動の影響に対する回復力がつき、目に見える恩恵をもたらしています」
「脆弱なコミュニティが力を与えられた結果、気候変動に対する受身の犠牲者だったのが、干ばつ、食糧不足、家畜の損失に耐えられる有効な主体に変身しつつあります。このプロジェクトは、我々が貧困国と協力してコミュニティが持続可能な形で発展するのを支援すれば何が達成できるかを示すものです」
コミュニティとしては炭素取引制度の恩恵を受ける機会を歓迎していますが、ゲルチャなど協同組合の組合員は生態系の再生についてもとても喜んでいます。
「山々が生き返り、土壌浸食が減ったのを見ることができて幸運です。こうした問題は、何年も我々の暮らしを脅かし、食糧不足の心配をもたらしてきました。それに天気も以前より涼しくなって、再生された森に野生動物が戻ってきつつあります」と彼は微笑みながら言いました。