世界銀行は2022年5月12日、新刊「一次産品市場:変化、課題、政策」(Commodity Markets: Evolution, Challenges, and Policies)を発表しました。本書は、日本政府の支援を受けて、世界銀行見通しグループが主導する一次産品市場研究プロジェクトによる全3巻の著作の第1巻です。同グループは、主要一次産品46品目の価格データのとりまとめを毎月第2営業日に、一次産品市場の分析と見通しを毎年2回(4月と10月)に発表しています。
新型コロナウイルス感染症、ウクライナでの戦争、そして気候変動の影響を背景に、現在世界の一次産品市場は転換期にあります。世界銀行は本書のなかで、こうした変化は、今後数十年にわたり途上国に重大な影響をもたらす可能性が高いとの見通しを示しています。
本書は主要な一次産品全てを網羅した初の包括的な分析で、これら市場の過去100年間の変化を検証するとともに、今後30年間の傾向を予測しています。本書は、人口の伸びが鈍化し途上国が成熟化する中で、世界的な一次産品の需要の伸びは、一部商品については需要が増加するものの、総じて減速すると予測しています。
クリーン・エネルギーへの移行についても難しい局面を迎える可能性があります。再生可能エネルギーのインフラの構築や電気自動車の製造に不可欠な金属の需要が、今後数十年間で急増することで、金属価格が上昇し、かかる金属の輸出国に棚ぼた的な利益をもたらす可能性がありますす。再生可能エネルギーは、多くの国で最も安価なエネルギー源としての地位を急速に確立しつつありますが、化石燃料もまた、とりわけ国内の埋蔵量が豊富な国で、一部その強みが引き続き発揮されるとみられています。低炭素テクノロジーへの投資は、必要とされる水準のわずか3分の1にとどまっているなど依然として不十分であることから、短期的には、エネルギー需要が引き続き供給を上回り、価格が高止まりした状態が続くとみられています。
この度、本書の編者であるジョン・バフェス世界銀行見通しグループ上級農業エコノミストおよびピーター・ネーゲル同上級エコノミストの来日機会を捉え、本書の概要を日本の皆様に向けてご紹介するセミナーを東京において開催しました。
日時
2022年11月4日(金)午後1時~午後2時30分(日本時間)
プログラム
基調講演
ジョン・バフェス
世界銀行 マクロ経済・貿易・投資グローバルプラクティス 見通しグループ 上級農業エコノミスト
ピーター・ネーゲル
世界銀行 マクロ経済・貿易・投資グローバルプラクティス 見通しグループ 上級エコノミスト
コメント
古橋元
農林水産政策研究所 食料需給分析チーム長
ジョン・バーン
アジア開発銀行研究所 研究部 研究部長代理 / シニアリサーチフェロー
当日の資料: Discussion of “Commodity Markets: Evolution, Challenges, Policies” (英語、PDF)
モデレーター
大森功一
世界銀行 東京事務所 上級対外関係担当官
発表資料
Commodity Markets: Evolution, Challenges, Policies(英語、PDF)
スピーカー・コメンテイター紹介
ジョン・バフェス
世界銀行 マクロ経済・貿易・投資グローバルプラクティス 見通しグループ 上級農業エコノミスト
主要一次産品46品目の価格データ、市場分析、見通しを取りまとめて半年に1回発行する「一次産品市場の見通し」(Commodity Markets Outlook)をはじめ、世界銀行による一次産品市場や価格データに関する分析を統括している。1993年に世界銀行に入行し、これまでラテンアメリカ、南アジア、東アフリカ、評価、研究ユニットに従事し、経済開発、農業経済、資源経済、応用エコノメトリックスなど多岐にわたる分野で学術論文や共著を発表してきた。エグゼクティブMBAコースにて一次産品市場に関する応用エコノメトリックスを教えている。アテネ大学にて経済学学士号(1983年)、ジョージア大学にて農業経済学修士号(1986年)、メリーランド大学にて農業・農村経済学博士号(1992年)を取得している。
ピーター・ネーゲル
世界銀行 マクロ経済・貿易・投資グローバルプラクティス 見通しグループ 上級エコノミスト
一次産品や債務危機を中心に様々なトピックに従事。世界銀行が半年に1回、一次産品市場に関する分析と価格見通しをとりまとめる報告書「一次産品市場の見通し(CMO)」の共著者。世界銀行入行以前は、国際金融協会(IIF)、イングランド銀行に勤務。ブリストル大学で経済学修士号、エクセター大学で経済学学士号を取得。
古橋 元
農林水産政策研究所 食料需給分析チーム長
博士(農学)。2008年農林水産政策研究所に入所し、経済協力開発機構(OECD)農業貿易局食料農業市場貿易課農業政策アナリスト(農林水産政策研究所派遣職員)、世界銀行ワシントン本部客員研究員などを経て、2018年に農林水産政策研究所 上席主任研究官となり、2022年10月から放送大学教授として着任し、現職も継続。専門は、世界の食料需給動向および将来見通しや穀物等の国際コモディティ市場動向についての研究で、農林水産政策研究所が毎年公表する「世界の食料需給見通し」も担当。
ジョン・バーン
アジア開発銀行研究所 研究部 研究部長代理 /シニアリサーチフェロー
アジア開発銀行研究所研究部にて、マクロ経済、金融、インフラに関するリサーチワークを統括。欧州中央銀行(ECB)エコノミストとして、国際金融市場、資本フロー、一次産品市場に関連する国際政策分析・経済研究の分野で、10年以上ドイツでの勤務経験を持つ。ADBIリサーチフェローを経て、民間企業や学術界にてエコノミストとして従事。経済学や金融学の専門誌に幅広く論文を発表し、国際的なマクロ問題に関し、アルジャジーラ、アリラン国際放送、ブルームバーグ、チャイナデイリー、香港電台(RTHK)などのメディアでコメンテーターを務めている。英国ブルネル大学で経済学の博士号を取得。
関連セミナー
2022年11月1日開催
世界銀行セミナー「一次産品市場の見通し(CMO) 2022年10月版」
2022年11月2日開催
セミナー「一次産品市場:その変化と課題、求められる政策」(神戸大学にて開催)
2022年11月4日開催
世界銀行セミナー「一次産品市場:その変化と課題、求められる政策」(東京開催)