広大な川や急斜面の多いネパールは水力発電の開発に非常に適した地理環境にあり、潜在発電能力は8.3万MWほどもあると予測されています。現在はこの2パーセントしか活用されていないため、ネパール政府は巨大な潜在力を生かすための壮大な計画を描いています。世界銀行は「ネパールにおける電力セクター改革および持続可能な水力発電プロジェクト(仮訳)」を通じ、同国における持続可能な水力発電所の開発を支援しています。プロジェクト目標はネパールの電力セクター関連諸機関の能力強化を通じ、それら機関が水力発電や送電事業の計画や準備を行い、規制や制度改革に取り組む備えを行うことです。同プロジェクトは現在、「アルン渓流上流域水力発電プロジェクト(仮訳)」を含む2件の水力発電プロジェクトの準備を支援しています。
しかしながら、水力発電に適したネパールの地理的特徴は同時に、災害や気象の変化に対する脆弱性も高めています。ネパールでは地震に加え大雨が多く、その結果、地滑りや氷河湖決壊洪水(GLOF: glacial lake outburst flood)を含む洪水が発生します。そのため、ネパールの水力発電開発には防災体制の導入が不可欠です。日本―世界銀行防災共同プログラムは技術支援プロジェクト「ネパールにおけるダムの安全性確保および防災」を通じ、アルン渓谷の防災行動計画を策定し、ダムの安全規制に関する提言を行い、ダムの耐震安全ガイドラインを作成するためのロードマップの準備を支援しています。
2022年1月24日に、事業コンサルタントが作成した防災行動計画ロードマップの草案を、関係者に発表するためのオンライン協議が開催されました。協議はエネルギー・水資源・灌漑省(MoWERI)、ネパール電力公社(NEA)、国家防災管理庁(仮訳、NDRRMA:Nepal Disaster Risk Reduction and Management Authority)、5つの水力発電会社で構成されるアルン渓谷水力発電開発フォーラム(仮訳、Arun Valley Hydropower Developers Forum)、国際協力機構(JICA)ネパール事務所、そして世界銀行東京防災ハブの関係者が参加しました。
協議では、ロードマップ草案の発表に加え、モニタリング・システムのパイロット版のデモが行われたほか、ユネスコ後援機関 水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM)の小池俊雄センター長による発表が行われました。東京大学の名誉教授であり日本学術会議会員である小池センター長は、「最新降雨・融雪予測および貯水運用システムにおける気候変動の影響および強靭性の向上(仮訳。原題:Climate Change Impact and Resilience Enhancement with Advanced Rainfall/Snowmelt Forecasting & Reservoir Operation System)」について発表を行いました。
本協議で行われたステークホルダーとの対話により、防災行動計画策定に向けてのロードマップを作成する上で貴重な意見が得られました。ロードマップは、ネパール政府がアルン渓谷の災害リスクを管理する能力を強化し、下流域コミュニティの知識と備えを改善し、同地域での水力発電所の運営に必要な情報を提供する上で、重要な役割を果たすことが期待されます。