トルコ政府は、国の都市建築環境、特に住環境を、地震や洪水、地滑りなどの自然災害や気候変動に対して強靭化するために、都市変革を加速させています。近代的な耐震基準が導入された2000年以前にトルコ都市部で建てられたほとんどの建築物は、地震や気象災害に対し非常に脆弱なため早急な補強工事が必要とされています。トルコ全国で耐震補強工事や立て替えが必要な家屋は約670万棟だと推定され、工事費用は4650億ドルに上る見込みです。この内、既に改築された家屋は4パーセントにとどまります。目標とする壮大な都市変革の規模に鑑み、住宅の耐震工事や再建築に関する政府の既存の助成制度では、必要となる膨大な資金を確保することは到底できません。とりわけ低・中所得層の住宅所有者が都市変革から取り残されないよう、そうした家庭が住宅の強靭化のための補強工事や再建築に必要な資金にアクセスできるような新たな資金調達方法を準備する必要があります。世界銀行では、この重要な都市強靭化の課題に取り組むトルコの環境都市計画気候変動省(MoEUCC)に対し、技術支援を行ってきました。
技術支援の一環として、2021年12月21日に、世界銀行は日本―世界銀行防災共同プログラムの支援によりMoEUCC職員と住宅金融支援機構の専門家による知見交換会をオンライン形式で開催しました。知見交換会は、地震や洪水の被害を軽減するための住宅リフォームや補強工事のための資金提供に関し、日本の経験を共有する目的で開催されました。同機構は日本政府が出資する独立行政法人であり、日本の家庭に対し住宅の建設、購入および再建築のための資金を、主に長期固定金利型ローンの買取により提供しています。
MoEUCC職員はオンラインの知見交換会を通じ、住宅金融支援機構が良質な住宅に対する長期固定金利型住宅ローンを提供する金融機関から当該住宅ローンを買い取ることにより、日本の住宅の強靭化や省エネルギー化に貢献してきたことに理解を深めました。同機構専門家からは、被災住宅の再建および耐震化や地滑り対策等の防災工事のための資金を貸し付ける住宅ローンの提供に関する知見の共有も行われました。加えて、同機構専門家は同機構の業務について説明を行い、借入要件、関連機関との役割や責任の分担、技術検査制度、そして過去の教訓についても紹介しました。
住宅金融支援機構専門家は、同機構の設ける高い技術基準や入念な検査制度が良質住宅の建設推進に貢献してきたこと、日本政府からの補助金を活用して金利引き下げした住宅ローンを導入したことが自然災害への強靭性に加え、耐久性や省エネルギー性、バリアフリー性などで質の高い住宅の推進に貢献していることについても触れました。同機構の業務が住宅への被害を軽減する上で有効であることは、過去の災害が証明しています。質疑応答では、同機構の長期固定金利型住宅ローンの仕組みや借入要件、技術検査などについて活発なやり取りがありました。
今回のオンライン知見交換会により、MoEUCC職員は住宅の耐震化や洪水対策のための日本の融資制度の特徴を学び、トルコが抱える課題を解決する糸口を見出すことができました。また、トルコ政府は堅実な資金提供方法に関する情報を得るとともに、補強工事や改築で住宅の強靭化や省エネルギー性向上など、質の高い住宅を促進するインセンティブに関する知識を得ることもできました。日本から学んだ知見は、トルコが住宅を強靭化し、都市開発目標を達成するための資金調達制度を設計する際に、大きく貢献することが期待されます。