セミナーの冒頭、塚越保祐・世界銀行駐日特別代表は、世界銀行がエボラ出血熱対策に400億ドルの緊急支援を決定したこと、危機対応を超え公衆衛生上の危機から全ての人々を保護し、経済的な損失により貧困化が進む事を防止するためにヘルス・システムの構築が必要であることを述べました。2011年、日本の国民皆保険達成から50周年を迎えたのを機に、ユニバーサルヘルスカバレッジの各段階にある国々の経験を共有するため、日本と世界銀行の共同研究プログラムが発足し、日本を含む11カ国(バングラデシュ、ブラジル、エチオピア、ガーナ、インドネシア、ペルー、タイ、トルコ、ベトナム、フランス)を対象とした多国間国際研究が行われたこと、その成果がこの度、「包括的で持続的な発展のためのUHC:11カ国研究の総括」として公表されたことも紹介しました。
続いて、アダム・ワグスタッフ世界銀行開発経済総局(DEC)人間開発・公的サービス分野担当リサーチマネージャーが、東アジア6カ国(カンボジア、中国、インドネシア、フィリピン、タイ、ベトナム)各国の研究者、ヨーロッパの研究者、世界銀行による共同調査「アジアにおける保健の公平性と経済的保障(HEFPA)プロジェクト」の結果をご紹介しました。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)は、ただ単に健康保険や経済的保障、法的保証をすべての人に提供するだけでなく、誰もが必要な時に支払い可能な額で、財政困難に陥ることなく、健康サービスにアクセスできることを意味します。本調査では、健康保険への助成金などの需要サイドの取り組みとパフォーマンスに基いた支払いなどの供給サイドの取り組みなど、各国のUHC政策の効果について検証し、1)健康保険への助成金は政策決定者が考えていたほど万能ではない、2)健康保険へ加入すれば常に財政保障があるわけではない、3)保健ケアのプロバイダー側のインセンティブはUHCにおいて需要サイドのインセンティブと同じく重要である、という3点の結論に達しました。また、橋本英樹・東京大学大学院医学系研究科教授から、1961年の日本の国民皆保険達成とその後の様々な改革の取り組みの経験に基づいたコメントをいただき、参加者の皆様と活発な質疑応答が行われました。
ON THE ROAD TO UNIVERSAL HEALTH COVERAGE: LESSONS FROM A MULTI-COUNTRY STUDY IN EAST ASIA (PDF)
アダム・ワグスタッフ 世界銀行開発経済総局(DEC) 人間開発・公的サービス分野担当リサーチマネージャー |
橋本英樹 東京大学大学院医学系研究科教授 |
スピーカー
アダム・ワグスタッフ
世界銀行開発経済総局(DEC)人間開発・公的サービス分野担当リサーチマネージャー
英国ヨーク大学から博士号取得。世界銀行入行前は、英国サセックス大学経済学教授。国際医療経済学会次期会長。20年にわたりJournal of Health Economics 編集委員を務め、医療経済学、とくに公平性、経済的保障、医療制度改革など多数の分野で著作が多い。
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橋本英樹
東京大学大学院医学系研究科教授
東京大学医学部卒。循環器専門医として研修後、 ハーバード大学公衆衛生大学院にて医療政策学修士号、医療コミュニケーション学博士号取得。ヘルスケアシステムのパフォーマン ス、ミクロおよび国レベルでのヘルスケアの効果、医療の社会・経済学的文脈などが研究対象。日本における50年以上にわたるユニバーサルヘルスカバレッジの成果をとりあげたランセット誌の日本特集(2011年)にも執筆。