世界銀行・防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)はこの度、報告書「変化し続ける世界のリスク理解に向けて:自然災害リスク評価の新たなベストプラクティス」およびポリシーノート「変化し続ける世界の災害リスク理解に向けて」の発表を記念したセミナーを開催し、政府、大学、研究機関、民間企業などから合計100名以上の方々にご参加頂きました。
GFDRRは、これまで10年以上にわたって災害多発国が直面する脆弱性の分析と定量化、情報伝達支援を行っており、これまでの経験から、オープンデータ等を活用して、適切な情報を適切な時期に適切な人々に提供することでリスク及び災害による影響を軽減できることが明らかになっています。今回のセミナーでは、約40か国のケース・スタディを元にまとめられた報告書から、オープンデータを活用した取り組みの更なる開拓と活用促進の必要性、リスク情報や優先事項に関するコミュニケーション方法、正確なリスク情報に投資を続ける必要性などの知見を共有しながら、今後のリスク評価に向けた提言を行いました。
冒頭、塚越保祐世界銀行駐日特別代表より、8月に広島で発生した土砂災害、9月に発生した御嶽山噴火による被災者の方々にお見舞い申し上げると共に、多数の自然災害を乗り越える度により強靭な社会を構築してきた日本の経験やノウハウを途上国に展開し、災害リスク管理を途上国の開発計画の中で主流化することを促進することが重要だと述べました。
アラーナ・シンプソン 世界銀行 防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)上席防災専門官は、過去20年間に起こった災害を踏まえ、10の提案を紹介しながら、事前にリスクを把握することで被害を軽減できることを強調しました。この中で、リスク評価はプロセスであり、予測できない不確実性を理解すること、組織・分野横断的な情報収集・共有・公開のための組織間協力、情報公開の透明性が不可欠だと説明しました。この中で言及した提案は、ポリシーノート「変化し続ける世界の災害リスク理解に向けて」において、次の通り紹介されている - (1) 分析を始める前にリスク評価の目的を明確にする、(2) リスク評価プロセスのオーナーシップを促進し、リスク軽減の取り組みを実現する、(3) オープンデータの活用を奨励、促進する、(4) リスク情報の伝達方法の改善を緊急優先事項に据える、(5) 国際的なレベルからコミュニティのレベルまであらゆるレベルにおいて、複数の機関及びセクターが関わる学際的な連携体制を整備する、(6) さまざまなリスク背景を考慮する、(7) 進化するリスクを常に把握する、(8) リスク情報の不確実性と限界を理解し、定量化して伝える、(9) リスク情報の信頼性と透明性を確保する、(10) リスク特定のためのオープンツールの革新を奨励する、の10項目です。
イワン・グナワン 世界銀行 インドネシア事務所 上席防災専門官は、インドネシア及び東アジアの事例から、リスク評価をする上で重要となるデータを途上国の地方政府が十分に持っていないことを指摘しました。その上で、このような問題を解決するためのイノベーションとして、インドネシアでオープンデータを活用したツール“InaSAFE”を構築し、コミュニティや地方政府と共に参加型アプローチでリスク評価のための基礎データを構築しつつある事例を紹介しました。また、データをさらに蓄積・更新し、活用してくためには、持続的な投資・活動が重要だと述べました。
竹谷公男 国際協力機構(JICA)客員専門員は、過去20年の災害支援では、緊急支援及び復興のために多くの費用が費やされ、防災に関する取り組みへの投資はごく一部にとどまってきた世界的なトレンドに対し、日本は過去20年にわたり、途上国の災害リスク軽減・予防のために資金リソースを集中させて協力してきたと述べました。またリスク評価の目的は災害リスク軽減であり、災害リスク軽減はコストではなく、開発の重要な一部であるとし、次期兵庫フレームワークでは、ミレニアム開発目標と兵庫フレームワークの融合が重要であると訴えました。
澤野久弥 土木研究所 水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM)上席研究員は、水関連災害リスク評価における指標開発の必要性について説明し、リスクを数量化する上で、災害条件(hazard)、災害による人・財産・経済へ与える影響(exposure)、脆弱さ(vulnerability)の3つが重要な指標であると指摘しました。また実際にこれら3指標を数式化し、リスクを数量化した事例としてダムや堤防を構築した場合としなかった場合の被害の大きさを具体的に示し、リスク評価指標開発の必要性を訴えました。
質疑応答・ディスカッションでは、(1) リスク評価はプロセスであり、評価を活用したリスク低減が目標であること、(2) ドナー・国際機関など、マルチ・バイの組織それぞれに役割があり、各機関の比較優位性を活かしたアプローチが重要であること、(3) リスク評価において多様なステークホルダーを巻き込み、リスク低減のための行動を起こしていくための信頼関係構築及びオーナーシップの醸成が重要であること、(4) リスク評価の結果を人々の行動・意識変容に繋げるためには、コミュニケーションが重要であり、対象グループに合った言語・情報を利用することが特に重要であること、(5) 情報の透明性を確保することが極めて重要であること等が指摘されました。
世界銀行東京防災ハブは今後もこのようなセミナー開催を通じて、日本における防災に関する知見と世界で行われている活動を連携させる取り組みを行っていきます。
プログラム
講演:
アラーナ・シンプソン 世界銀行防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)上席防災専門官
「変化し続ける世界の災害リスク理解に向けて」
イワン・グナワン 世界銀行都市・農村・社会開発局上席防災専門官(世銀インドネシア事務所よりテレビ会議接続)
「リスク理解に向けたツールとデータの革新:東アジアと太平洋からの経験と教訓」
竹谷 公男 独立行政法人国際協力機構客員専門員
「ツールとしての災害リスク評価とJICAの経験とHFA2への提案」
澤野 久弥 独立行政法人土木研究所水災害・リスクマネジメント国際センター 水災害研究グループ(ICHARM)上席研究員
「水関連災害リスク指標開発の必要性について」
モデレーター:
牧野由佳 世界銀行グループ東京防災ハブ上席防災担当官
(敬称略)
質疑応答
アラーナ・シンプソン 世界銀行防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)上席防災専門官 略歴
世界銀行・防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)・ラボチームにおける自然災害リスク分析、防災地域チームにおける自然災害リスク評価及び地理空間・リモートセンシング等の技術支援を担当。中央及び東南アジア・インド洋諸島・サハラ以南のアフリカ・欧州・太平洋諸国等多くの国で多様な開発及び技術支援に従事。入行以前は、オーストラリア政府で科学系機関、マッピング機関、災害管理機関と連携して東アジア及び太平洋諸国における自然災害リスク分析能力の向上に貢献。ニュージーランド及びオーストラリア国籍。クイーンズランド大学(オーストラリア) 地学(火山学)博士号取得、オタゴ大学(ニュージーランド) 科学修士取得、オークランド大学(ニュージーランド)理学士取得。
関連リンク
- 世界銀行・防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)
- GFDRRによる最近の主な出版物
- 「変化し続ける世界の災害リスク理解に向けて」ポリシー・ノート全文
- Understanding Risk in an Evolving World - Emerging Best Practices in Natural Disaster Risk Assessment
- Understanding Risk in an Evolving World - A Policy Note
- Understanding Risk - Review of Open Source and Open Access Software Packages Available to Quantify Risk from Natural Hazards
- Open Data for Resilience Initiative: Field Guide
- Crowdsourced Geographic Information Use in Government
- GFDRR Innovation Lab による取り組み(オープンデータ: GeoNode, OpenStreetMap, InaSAFE、Code for Resilience など)