報告書について
自然災害や気候変動がタジキスタンの経済や社会的発展を脅かしています。様々な地質学的、気候学的、地形学的特徴が国の脆弱性を悪化させており、地震や洪水、地すべり、雪崩など複数の自然災害が増えています。自然災害は、インフラや経済活動、社会福祉に対し短期的および長期的な損害を与えます。1992年から2016年の間のタジキスタンにおける自然災害による経済損失は18億ドルを超え、700万名近くが被害に遭っています。
日本―世界銀行防災共同プログラムの支援を得て作成された本報告書では、国の主要道路網に影響を及ぼす災害の定量化可能な経済コストを検証しました。道路網への投資を増加し、災害への強靱性を高めるためには、こうしたコストを正確に理解することが重要です。
研究の一環として、被災コミュニティにおける400件以上ものアンケート調査や15件の取材を含む広範な現地調査が行われました。また、国内外の貿易回廊や隣国への道路を中心に、タジキスタンにおける2,000キロ以上もの道路の点検も行われました。
被害抑止策
何らかの危険が存在する地点が合計331カ所も特定されました。各地点における詳細な確認作業により、それぞれの地点の危険要因を評価し、講じ得る被害軽減策を特定することができました。また、自然災害の発生場所、規模および頻度への気候変動の影響に関する評価も行われました。
これにより、道路網の強靱化のために必要な合計投資額を推計することができました。初期分析によれば、全331地点で物理的な被害軽減策を導入するには、約4.04憶ドルの投資が必要だということが分かりました。
100%の強靱性は達成不可能な目標であるため、特定災害の排除(例:雪崩予防柵)に加え、災害の影響の緩和(例:落石防止網)にも焦点をあてる対策が提案されました。こうした対策を講じてもなお重大なリスクは残るため、可能な限りの軽減策を講じる必要があります。
報告書はタジキスタン政府に対し、災害が頻発する地域において捜索救助および緊急対応能力の改善のための投資を継続することを勧告しています。また、災害が発生するサインを早期にキャッチし、道路利用者や危険にさらされている地域、初期対応者に災害への備えを促すための早期警報システムへの投資も同様に重要です。こうした制度は、機材や関係者が適時に適切な場所にいることを可能にすることで、人命の喪失や災害への対応時間を減らします。
経済コスト
報告書は次の要素を検証しました:
- インフラへの物理的損害や修復コスト
- 捜索救助や緊急対応のコスト
- 人命の喪失
- 交通の途絶による損失
- 被災地域における社会経済コスト(収入の喪失を含む)
2022年にタジキスタンの道路網に災害が及ぼす合計経済損失は、年間GDPの0.5%、約4.45億ソモニになると予測されています。
提案された被害抑止策について費用便益分析を行った結果、経済的内部収益率が-14.5%となり、全ての抑止策を導入することは採算が合わないことが判明しました。
しかしながら、各道路区間で個別に費用便益分析を行った結果、特定の道路区間においては、被害抑止策の実施が経済的に理にかなうことが判明しました。これに基づき、ラビジャール・カライクンブ間、ムルガブ・カラクル・キジラート間、グリストン・ピャンジ間そしてデフモイ・コニボドム間などの道路区間における被害抑止策の実施には経済的合理性が認められます。
気候変動による影響
今回の研究には、将来の災害の頻度と危険度に対し、気候変動がどのような影響を及ぼすかを分析するという重要な側面もありました。気候変動による影響の地域差が大きく、災害の種類によって異なる影響が予測されるタジキスタンのような国では、こうした分析は特に重要です。総合的に見ますと、道路網に影響を及ぼす災害の数は今後10年間で毎年3%増えると予測されています。
タジキスタンの山岳地帯における気象災害やリスクの種類の中でも、最も深刻な脅威となるのは異常降雨の増加でしょう。これにより、鉄砲水のような洪水のみならず、より頻繁かつ強力な泥流や地すべり、雪崩などが起こる可能性があります。