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BRIEF

西尾副総裁インタビューーあなたも国際機関の職員に

世界銀行では、世界中から集まる専門家が途上国支援のプロジェクトに携わっています。世界銀行での働きがいについて、数々の開発プロジェクトをリードしてきた西尾昭彦副総裁(開発金融担当)に伺いました。

世界銀行が挑む課題とは

世界銀行ワシントンDC本部
世界銀行は、途上国の発展を支援する国際機関です。銀行という名前ではありますが、いわゆる一般の銀行と異なり、資金の提供先は途上国の政府・民間企業です。また、資金だけでなく、経済成長のための知識や政策アドバイスも提供している点が特徴です。途上国の成長のために必要な、インフラ、保健、環境、教育などあらゆる分野で支援を行っている他、気候変動、パンデミック、食料危機などのグローバルな課題にも対応しています。

世界銀行の本部は米国ワシントンD.C.にありますが、この他、世界141カ所に事務所を置き、181カ国出身の約13,000人の職員が働く、多様性に富む職場です。日本にも東京に事務所があり、第二位の出資国である日本とのパートナーシップ強化に努めています。また日本は、第二次大戦後に世界銀行から融資を受けて東海道新幹線や愛知用水などを整備した歴史があります。

世界銀行が求める人材

世界銀行が求める人材
世界銀行では以下のようなスキルを有している方をお待ちしています。

  • 高い専門性 
  • 専門性に関連した分野の学位(修士号以上) 
  • 高度な語学力

世界銀行は途上国に政策アドバイスを提供する機関です。従って、例えば教育システムを作るためには教育の専門家、発電所を建設するためには電力エンジニア、というようにそれぞれの専門家が各プロジェクトに携わっています。

こで職員には、学歴や職歴を通じて培った高い専門性が求められます。日本ではよく、幅広い分野で経験を積んでいると「経験豊富」と評価されますが、世界銀行のような国際機関ではむしろ多分野での経験はジェネラリストと捉えられる傾向にあります。例えば面接時に「あなたは何のスペシャリストですか?」と問われたときに答えられる、ある特定分野での深い専門性が必要なのです。

また、高いレベルの語学力が求められます。国際機関では英語を母国語としない国の出身者も多いので、ネイティブのようなアクセントでなくても大丈夫ですが、「書く力」「読む力」、そして何より「プレゼン能力」が日々試されます。

こうして挙げると少しハードルが高く感じられるかもしれませんが、ご自身でも気づかないうちに国際機関の門をたたく条件を有している方は実はたくさんいるのです。特に理系の大学院出身者、コンサルティング企業、総合商社、投資銀行、地方自治体などで働いている方々は、前職で培われた経験が生きる場面が多く、仕事上親和性があるという声も聞いています。

これまで磨いてきた専門性をフルに使って社会に貢献したい。そのような熱い思いを持った方は、ぜひ世界銀行の一員として活躍していただきたいです。

多様化するリスクに対抗すべく、最貧国支援に史上最大規模の930億ドルを調達
 

世界銀行 開発金融担当副総裁/西尾 昭彦

──西尾さんは30年以上にわたって、さまざまな形で開発の仕事に携わってこられたそうですね。これまでの経歴を教えていただけますか。

西尾昭彦 世界銀行 開発金融担当副総裁
もともとは海外経済協力基金(現JICA:国際協力機構)という、円借款を供与する機関に5年間勤め、ビルマ(現ミャンマー)や韓国を担当していました。そこで「開発の仕事をやるからにはいつか世界銀行に行ってみたい」と思い、1988年に入行したのです。

世界銀行では多くの場合、専門分野に特化したキャリアを歩みますが、私は多様な分野を経験してきたユニークな経歴を持ちます。例えば、エコノミストとしてインドネシアの農村開発に携わったり、中国で複数プロジェクトを束ねるプログラム・コーディネーターを務めたり、南アジアの戦略業務局長、マクロ経済分析の専門家を束ねる部署の副総裁代行なども歴任してきました。

現在は、世界銀行の開発金融担当副総裁として、国際開発協会(IDA)、国際復興開発銀行(IBRD)、多様な信託基金ポートフォリオなどを通じ、世界銀行の戦略的資金調達を統括しています。

なかでもIDA(アイダ)は私にとって天職といえます。IDAは世界75カ国の最貧国に対する開発資金を先進国から調達する基金ですが、気候変動やパンデミック、地政学的リスクから年々ニーズが高まっています。3年に一度、1年間かけて増資交渉を行いますが、直近の「IDA第20次増資(IDA20)」では、3年間分で930億ドルという過去最大規模の増資確保を実現できました。

また2023年には、世界銀行が国際開発金融機関(MDBs:Multilateral Development Banks)として初めて、民間投資家にも出資を求めるハイブリッド資本の導入を決めました。そのほかにも、MDBsで連携して融資を効率化し、より巨額の資金調達を可能にするべく議論をリードしています。

──世界銀行が各国で行う開発プロジェクトの特徴、面白さは何でしょうか。

西尾昭彦 世界銀行 開発金融担当副総裁
まず、私たちが価値貢献する対象は世界なので、どの国でも良いアイデアがあれば進んで取り入れ、実現した成功例を他国・地域に横展開できるのが特徴です。

例えば、「条件付き現金給付(CCT:Conditional Cash Transfers)」はメキシコやブラジルで国家的プロジェクトとして成功を収めたことが有名ですが、実は最初のアイデアはバングラデシュのNGO発で、世界銀行が当地での実施を支援し、後に横展開を図ってラテンアメリカに持ち込んだものです。

そもそもCCTとは、個人や家庭が一定の条件を満たした場合に補助金を与えることで、子どもに対する教育や栄養、保健衛生面の課題を解決していく仕組みです。バングラデシュのケースでは、乳幼児の体重測定をして順調に育っていれば両親に補助金を出し、家庭における開発志向性の醸成を目指したものでした。こうした汎用性の高い成功例を世界に広げていけるのは世界銀行ならではでしょう。

また、支援先の国の政策にまつわる問題に深く切り込めるのも、世界銀行の大きな強みです。私が若手時代にタスクチームリーダー(TTL)を務めたプロジェクトでは、インドネシアの土地登記制度を策定しました。

世界銀行ではプロジェクトに先立ち、経済・セクター分析を行って開発課題の解決を阻害している要因を調べます。インドネシアの場合は土地の所有権が確定していないことが課題視されたため、私がTTLとしてチームを組成し、具体的活動に入りました。TTLは個々のプロジェクトで世界銀行の活動を調整し、プロジェクトチームを補佐する個人コンサルタントの採用も担います。

このときはまずニュージーランドの測量技師と、インドネシア語が堪能なオランダ人弁護士を招集し、随時必要に応じてメンバーを2~5人加え、1年かけて土地問題の課題を抽出。そこで旧来の土地登記制度の機能不全に行き着き、新制度の策定を提言しました。それが理事会で承認されるとプロジェクトが始動し、相手国政府と緊密に信頼関係を築きながら遂行していきます。

世界銀行の資金はほぼ全てが対象国の政府を通して使われるので、特定の省庁などがカウンターパートとなります。インドネシアの場合は国土庁であり、その上位官庁である経済計画省からは国土庁の体質改善という特命も受けていました。

実際このプロジェクトでは、パイロット事業をジャカルタ郊外で行って土地所有証明書を発行したところ、住民たちが「これで土地を担保に借り入れができる」「地上げ業者が来ても対抗できる」と歓喜の声を上げていたのが強く印象に残っています。

世界銀行ではこのように、政策面に踏み込んだ本質的な支援が行えます。またプロジェクトは、発掘、準備、審査、交渉/承認、実施、評価という6段階で進められ、最終的な評価を相手国政府や現地住民からも得られるので、手応えを直接感じられる点も魅力ですね。
 

これまで培った専門性を総動員し、社会に貢献できるフィールド

──世界銀行ではどういった方が活躍できるでしょうか。

西尾昭彦 世界銀行 開発金融担当副総裁
TTLはプロジェクトを組成する際、データベースでメンバーの得意領域や経験を参照することが多いのですが、実際には口コミでの評判をもっとも重視しています。具体的には、自分が信頼する仲間がそのメンバーをどう評価するか、一緒に働いた人からどのような点が評価されているかを確認しています。

良い評判を築くには即戦力となる専門性が必要ですが、それだけでなく多様な国籍や人種の仲間と楽しく仕事ができること、つまり人間性も大事なカギになります。私自身、そういった意識を大切にしながら、大事な仲間をつくってきました。

今後は、世界銀行の他機関とのパートナーシップをさらに進展させようと考えています。昨今の開発課題は複雑化しており、一つの機関だけではとても解決できないので、パートナーシップで協議をスケールアップして、より大きな社会課題を着実に解決していきたいです。

──最後に、記事をご覧の方にメッセージをお願いします。

昨今、国際社会は分断が進み、地政学的な対立も生まれていますが、そうした問題を「自分事」として捉えて何かしら力になりたい、自分なりに解決策を見いだしたいという方にとって、世界銀行は絶好の職場といえます。なぜなら、職員を結び付けているのは、共通の問題意識や使命感だからです。

また、年齢や学歴も関係なく、人間的な本質を問われる実力主義の風土です。自分が今まで築き、蓄え、磨いてきたもので勝負できる。そうした場に面白さを感じ、自らの可能性に挑戦したいという方にお会いできるのを楽しみにしています。