IDA(アイダ:国際開発協会)は、世界銀行グループを構成する機関の一つで、世界銀行本体(IBRD:国際復興開発銀行※1 )が行う準商業条件による借入条件では借入を行えない世界の最貧国に対し、超長期・低利による融資や、グラント(無償資金)による支援を行うため、1960年に設立されました(日本は原加盟国)。また、近年、IDAでは、世界の最貧国における民間投資を促進するため、IDAは、IFC(国際金融公社)やMIGA(ミガ:多数国間投資保証機関)との連携も進めています。
現在、IDAの支援国(74)の多くはサブサハラの国々によって占められていますが、アジア・太平洋諸国の中にも、バングラデシュ、ネパール、カンボジア、ラオス、ミクロネシア、パプアニューギニアなど、IDAの支援を受けている国があります。IDAは、世界銀行グループを構成する機関の一つとして、最貧国における「貧困削減」と「繁栄の共有」の実現に取り組んでいます。IDAの支援分野は、インフラ、保健・栄養、教育、気候変動・防災、ガバナンスなど多岐にわたっており、他の国際機関やバイの援助機関と連携しつつ、様々な開発課題の解決に向け、主導的な役割を果たしています。
IDAによる支援は、世界の最貧国の現場で、大きな成果を産み出しています。例えば、過去10年で、IDAの支援を受け、3億9,590万人の子どもが予防接種を、9億7,490万人が基礎的な保健サービスを、1億1,330万人が整備された水源へのアクセスを享受しました。
IDAによる支援は、日本を始めとする加盟国政府からの資金貢献により賄われています。また、最近では、IDA債の発行を通じた、マーケットからの資金調達も行われるようになりました。ドナー諸国からの資金調達は3年ごとに行われ、その際、IDAの政策運営・資金配分のあり方などについて、活発な議論が行われます。
日本は、質の高いインフラ投資、国際保健(UHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)・パンデミックへの備え・栄養改善を通じた健康増進など)、防災、債務といった、途上国が直面する様々な課題の解決に向け、G7やG20といった国際的なフォーラムを含め、世界の開発の議論を主導しており、IDAの政策運営を巡る議論においても、積極的な役割を果たしています。加えて、日本は、資金面での貢献においても、米国に次ぎ、第二位のドナーとして位置付けられています。
※1 日本も、1950年代から1960年代にかけ、世界銀行から31件・計8.6億ドル(当時の為替レートで約3,100億円相当)の借入を行い、東海道新幹線や名神高速道路等の建設を進めました。詳しくは、こちらをご覧ください。
IDA第20次増資交渉
通常、IDAの資金調達(増資:replenishment)は3年ごとに行われますが、今回の増資では、コロナ危機に伴う途上国の資金ニーズ拡大を受け、予定を早め、前回増資(IDA19)から2年で行われることになりました。
IDA20増資交渉は、世界的なコロナ危機の中、2021年初めから始まり、G20からもサポート※2 を得て、昨年12月に日本がホストした最終会合で、3年(2022年7月〜2025年6月)で930億ドル(うちドナーによる貢献額は235億ドル)のパッケージが合意されました。前回増資(IDA19)同様、今回も、日本出身で開発金融を総括する西尾副総裁※3が先頭に立つ形で、70か国以上のドナーの参加を得て、1年弱にわたる増資交渉が行われました。
今回の増資パッケージは、コロナ危機の中で合意されたことを反映して、危機からのより良い復興(Build Back Better)、グリーンで強靭・包摂的な開発(GRID:Green, Resilient and Inclusive Development)を二大目標として掲げています。その上で、5つの柱(①気候変動、②ジェンダー、③脆弱国・紛争国、④雇用・経済(質高インフラなど)、⑤人的資本(保健・栄養・教育))と、全ての柱を通じて実現を目指す4つの特別テーマ(i)債務、ii)ガバナンス・制度、iii)技術、iv)危機への対応力強化)を中心に取り組むこととしています。
IDA20最終会合の終了後、マルパス総裁は、「日本などによる強力なコミットメントは、コロナ危機からの回復に向けた貧困国の取り組みを支援するための重要な一歩である」「私は、日本政府に対し、本会合の主催、また、世界の最貧国支援のためのリーダーシップ発揮に感謝したい」と発言するなど、日本への謝意を表明しました※4。IDA20の政策運営枠組みの中には、日本が主導する世界の開発アジェンダ(質高インフラ・国際保健(パンデミックへの備え・UHC・栄養)・防災・債務)が盛り込まれています。
※2 2021年10月 財務大臣・中央銀行総裁会議声明では「2021 年 12 月までの 野心的な IDA 第 20 次増資を期待」と明記。https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/convention/g20/g20_20211013.pdf
※3 西尾昭彦 開発金融総局担当副総裁
※4 プレスリリース「最貧国の着実な経済回復に向け、IDA第20次増資で930億ドルを確保」