BRIEF

日本とIDA(International Development Association:アイダ(国際開発協会))

2022年1月13日

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IDA20最終会合の様子


IDA(アイダ:国際開発協会)は、世界銀行グループを構成する機関の一つで、世界銀行本体(IBRD:国際復興開発銀行※1 )が行う準商業条件による借入条件では借入を行えない世界の最貧国に対し、超長期・低利による融資や、グラント(無償資金)による支援を行うため、1960年に設立されました(日本は原加盟国)。また、近年、IDAでは、世界の最貧国における民間投資を促進するため、IDAは、IFC(国際金融公社)やMIGA(ミガ:多数国間投資保証機関)との連携も進めています。

現在、IDAの支援国(74)の多くはサブサハラの国々によって占められていますが、アジア・太平洋諸国の中にも、バングラデシュ、ネパール、カンボジア、ラオス、ミクロネシア、パプアニューギニアなど、IDAの支援を受けている国があります。IDAは、世界銀行グループを構成する機関の一つとして、最貧国における「貧困削減」と「繁栄の共有」の実現に取り組んでいます。IDAの支援分野は、インフラ、保健・栄養、教育、気候変動・防災、ガバナンスなど多岐にわたっており、他の国際機関やバイの援助機関と連携しつつ、様々な開発課題の解決に向け、主導的な役割を果たしています。

IDAによる支援は、世界の最貧国の現場で、大きな成果を産み出しています。例えば、過去10年で、IDAの支援を受け、3億9,590万人の子どもが予防接種を、9億7,490万人が基礎的な保健サービスを、1億1,330万人が整備された水源へのアクセスを享受しました。

IDAによる支援は、日本を始めとする加盟国政府からの資金貢献により賄われています。また、最近では、IDA債の発行を通じた、マーケットからの資金調達も行われるようになりました。ドナー諸国からの資金調達は3年ごとに行われ、その際、IDAの政策運営・資金配分のあり方などについて、活発な議論が行われます。

日本は、質の高いインフラ投資、国際保健(UHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)・パンデミックへの備え・栄養改善を通じた健康増進など)、防災、債務といった、途上国が直面する様々な課題の解決に向け、G7やG20といった国際的なフォーラムを含め、世界の開発の議論を主導しており、IDAの政策運営を巡る議論においても、積極的な役割を果たしています。加えて、日本は、資金面での貢献においても、米国に次ぎ、第二位のドナーとして位置付けられています。

※1 日本も、1950年代から1960年代にかけ、世界銀行から31件・計8.6億ドル(当時の為替レートで約3,100億円相当)の借入を行い、東海道新幹線や名神高速道路等の建設を進めました。詳しくは、こちらをご覧ください。

IDA第20次増資交渉

通常、IDAの資金調達(増資:replenishment)は3年ごとに行われますが、今回の増資では、コロナ危機に伴う途上国の資金ニーズ拡大を受け、予定を早め、前回増資(IDA19)から2年で行われることになりました。

IDA20増資交渉は、世界的なコロナ危機の中、2021年初めから始まり、G20からもサポート※2 を得て、昨年12月に日本がホストした最終会合で、3年(2022年7月〜2025年6月)で930億ドル(うちドナーによる貢献額は235億ドル)のパッケージが合意されました。前回増資(IDA19)同様、今回も、日本出身で開発金融を総括する西尾副総裁※3が先頭に立つ形で、70か国以上のドナーの参加を得て、1年弱にわたる増資交渉が行われました。

今回の増資パッケージは、コロナ危機の中で合意されたことを反映して、危機からのより良い復興(Build Back Better)、グリーンで強靭・包摂的な開発(GRID:Green, Resilient and Inclusive Development)を二大目標として掲げています。その上で、5つの柱(①気候変動、②ジェンダー、③脆弱国・紛争国、④雇用・経済(質高インフラなど)、⑤人的資本(保健・栄養・教育))と、全ての柱を通じて実現を目指す4つの特別テーマ(i)債務、ii)ガバナンス・制度、iii)技術、iv)危機への対応力強化)を中心に取り組むこととしています。

IDA20最終会合の終了後、マルパス総裁は、「日本などによる強力なコミットメントは、コロナ危機からの回復に向けた貧困国の取り組みを支援するための重要な一歩である」「私は、日本政府に対し、本会合の主催、また、世界の最貧国支援のためのリーダーシップ発揮に感謝したい」と発言するなど、日本への謝意を表明しました※4。IDA20の政策運営枠組みの中には、日本が主導する世界の開発アジェンダ(質高インフラ・国際保健(パンデミックへの備え・UHC・栄養)・防災・債務)が盛り込まれています。

※2  2021年10月 財務大臣・中央銀行総裁会議声明では「2021 年 12 月までの 野心的な IDA 第 20 次増資を期待」と明記。https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/convention/g20/g20_20211013.pdf
※3  西尾昭彦 開発金融総局担当副総裁
※4  プレスリリース「最貧国の着実な経済回復に向け、IDA第20次増資で930億ドルを確保

 


IDAの取組例

テーマ

インフラ

世界では、全天候型道路から2 km以上離れた場所に8億4000万人が住んでおり、10億人が電気を使うことができず、40億人がインターネットにアクセスできません。基本的なインフラサービスへのアクセスは、貧困層に経済的機会を創出するために重要です。

インフラ分野での取り組み

ギニア
2014~18年、国営電力会社の技術改善の恩恵を享受した人が140万人から190万人(内52%が女性)に、1日当たり平均サービス時間は12時間から18時間に、それぞれ増加し、電力損失の割合は年間42%から32%に低下。

ミャンマー
2015~18年、各世帯への送電線接続により110万人に、再生可能なオフグリッド又は小型水力発電により2万2,924人に、ハイブリッド・ソーラーのミニグリッドにより109万人に、それぞれ電力を供給(受益者の内、女性は54万8,052人)。同期間に、1万4,280のコミュニティが電気に接続(内122がグリッド接続で、7,931がオフグリッド又はミニグリッド)。

ラオス人民民主共和国
2010~17年、2本の国道(全長171キロ)が整備され、移動時間がそれぞれ50%と72%短縮。同期間に、813キロの農村道路と366キロの農村以外の道路を修復し、1,600キロの州道を整備。
 

グローバル・ヘルス

IDAは新型コロナの世界的流行に迅速かつ大規模に対応しています。危機が始まって以降、IDAコミットメントは560億ドルを超え、このうち約5割は、世界銀行グループの新型コロナ対策戦略の各種の柱に直接充てられます。ワクチンが入手可能になってからは、IDAは35カ国以上のワクチン・プログラムに資金を提供しており、より多くのプログラムへの支援も準備中です。いずれも極めて重要な取組みですが、まだ十分ではありません。IDA支援対象国の大半で危機はまだ終結していない上、開発に長年にわたる悪影響を残します。こうした中、IDA20は極めて重要な役割を担っています。

グローバル・ヘルス分野での取り組み

カメルーン
2016~18年、29万348人の子供が予防接種を受け、合計210万人の母子に基礎的な栄養サービスを実施し、貧困層・脆弱層に対し31万9,912件の健康相談を無料で提供。

カンボジア
2018年、1,320万人(内780万人が女性)に保健・栄養・人口の基礎的サービスを提供。3万7,267人の女性が子宮頸がんの検査を受け、250万人が外来診療を受診。

タンザニア
2014~18年、熟練した保健専門家の立会いの下での出産の割合が45%から78%に増加。2012~18年、4回以上産前ケアを受診した妊婦の割合が41%から61%に増加。ビタミンAを1回以上服用した生後12~59カ月の乳幼児の割合は51%から100%に増加。

さらに詳しく
バングラデシュ:がん診断のプロトタイプ機開発に貢献する高等教育研究への投資

 

気候変動と防災

IDAは途上国の適応努力を支援しており、2021年度には、IDAの気候変動対策資金の60%が適応と強靭性強化に充てられ、62カ国が災害リスク軽減を優先的な取組みに位置付けています。IDA20では、貸付における気候変動ベネフィットを35%まで引き上げ、パリ協定に沿ったプロジェクト実施を行います。また、「防災の主流化」は世界銀行グループにとって重要な課題であり、IDAにおいても、気候変動リスクに対し最も脆弱な途上国が、自然災害リスクに対して強靭な社会を構築できるように各国の取り組みを支援しています。

気候変動と防災分野での取り組み

ガーナ
起業家や中小企業による有益で地域に適した気候変動対策の開発を支援するため、ガーナ気候イノベーション・センターを設立。2016~18年、環境技術分野の対象企業で売上高が79万6,613ドル増加し、4万1,512世帯が改善された新製品・サービスへのアクセスを確保。

ネパール
2015~18年、6万400世帯(25万9,720人)が耐震性の高い心柱工法による住宅再建の恩恵を享受。9,319人の職人にマルチハザード耐性建築の研修を、29人の政府職員に災害リスク管理の研修を実施。

パキスタン
2015~18年、洪水防止堤防の修復により84万931人(内42万5,527人が女性)が恩恵を享受。150キロメートルの堤防を修復又は建設。2018年、災害と気候の脆弱性リスクにさらされている98万6,033人にモバイル・ショートメッセージ・サービスを通じて早期警告通知を提供(2015年は5万人)。

さらに詳しく
バングラデシュ沿岸地域の強靱性:洪水・高潮被害から沿岸のコミュニティを守る
サモアにおける障害者のアクセス改善と災害への備えの強化

 


地域

世界の最貧困層の3分の2にあたる5億人がIDAの支援する74カ国に暮らしています。こうした国々に対し、IDAは最大規模の開発援助資金を提供しています。IDAは支援終了国(卒業国)が持続的に成長を続け、開発効果が損なわれ貧困国に逆戻りしないよう幅広い取り組みを支援しており、これまで37カ国がIDAを卒業しています。
 

アジア

アジア地域における取り組み

アフガニスタン
2018年、農村部の2,040万人(農村人口の89%)に対し全天候型道路へのアクセスを提供(2013年は1,360万人(同58%))。

バングラデシュ
2012~17年、農村部の150万人に整備された水源へのアクセスを提供し、2万475 カ所に給水所を建設又は修復。水道アクセスを得た世帯は、2万1,802世帯から7万1,506世帯に増加。官民の参加により、37の給水所を建設。

パプアニューギニア
2011~18年、受益者の1ヘクタール当たり収穫高が、カカオ豆は169トンから728トンに、コーヒー豆は382トンから566トンにそれぞれ増加。1万8,321ヘクタールのコーヒー豆畑及び3,746ヘクタールのカカオ豆畑に改善された管理方法を導入。
 

アフリカ

アフリカにおける取り組み

マリ
農業競争力強化プロジェクトにより、加工マンゴーの生産量が、2016年の年間600トンから2018/19年は同1万5,280トンに増加。加工飼料の製造量は、2016年の年間14万7,565トンから2018年は同35万トンに増加。

モーリタニア
2016~18年、持続可能な漁業管理を促進するため4,980万ドルの民間投資を実現。2019年初旬、鮮魚類の輸出が2016年の936トンから7,086トンに増加。

ルワンダ
2009~18年、灌漑を実施した丘陵地帯の生産性が1ヘクタール当たり492ドルから5,639ドルに、灌漑を実施していない丘陵地帯の生産性は同469ドルから3,471ドルに、それぞれ増加。

さらに詳しく
ベナン:受益者に具体的な成果をもたらしながら、農業の課題に立ち向かう
ルワンダ:農村開発と社会的保護の拡大を通じて脆弱性の軽減と市民の社会・経済参加を促進
エチオピアにおける経済成長と繁栄の共有促進:生計の向上、強靭性の強化を通じて、より良い未来を作る

 


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