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特集2020年1月17日

林田修一 世界銀行グループ 多数国間投資保証機関(MIGA)駐日代表~第55回 世銀スタッフの横顔インタビュー

小学生の頃から海外生活の期間が長かった林田駐日代表。意外にも「学生時代や就職した当時はそれほど開発に興味があったわけではなかった」と話す林田代表が開発の世界に関心を持つようになったきっかけ、これまでに積み上げた経験を活かしたMIGAでの仕事、民間企業と国際機関の働き方の違いについて聞いてみた。

Shuichi Hayashida

The World Bank

2019年2月より現職。MIGAにおいては、これまでの民間企業とのディール経験を活かして、駐日代表として日系顧客のディールのオリジネーションを担当。ミャンマー、バングラデシュ、カンボジアなどのアジア案件の他、アフリカや中南米における日系企業が様々なセクターで事業を行うに当たって政治リスク保証の提供を行う業務に従事している。 現職の前は、大学卒業後に日系金融機関に入行し、国内支店勤務やジャカルタ支店で法人融資業務やトレジャリー業務などを経て、東京、ロンドン、シンガポールにてプロジェクトファイナンス及びM&A業務を長年担当。主なディールは途上国の大型LNG・電力プロジェクトファイナンス案件やアジアの銀行買収など。 慶應義塾大学経済学部卒、インディアナ大学ファイナンス学修士、FCSLロースクール法学修士。米国公認会計士、証券アナリスト。

開発の仕事へのきっかけを作ったインドネシア駐在

大学を卒業後、日本の民間金融機関に就職しました。海外で働きたいと思っていたので、海外勤務を希望して4年目にインドネシアのジャカルタ支店に赴任しました。為替や法人融資といった銀行業務を担当していましたが、駐在しながら現地の人々の生活を間近で見るうちに、開発途上国のために自分ができることはないのか、という思いを漠然といだくようになりました。

インドネシア駐在にも慣れてきた頃、我が家で働いてくれていたメイドさんが、ある時病気で亡くなってしまったんです。後日、お金が無くて病院で治療を受けることができなかったと知り、彼女のような人を助けることができないか、と強く思うようになりました。そんな時に、国際機関が開催するインフラのセミナーに参加し、国際金融公社(IFC)やアジア開発銀行(ADB)の活動を知ったことが、国際機関の仕事に関心を持ち始めたきっかけです。その後は勤めていた銀行でも途上国開発を通じた雇用の創出に関わることができるプロジェクトファイナンスの仕事を希望し、約12年、主にアジアやアフリカの案件組成を担当しました。

自分の専門分野を活かしてMIGAへ

銀行でプロジェクトファイナンスの仕事をしていくうちに、次第にジレンマを感じるようになったんです。銀行でも途上国のプロジェクトに融資をするので、経済成長に対するプラスの影響はあります。しかし、民間金融機関の目的はあくまで利益重視なので、リスクの高いプロジェクトへの融資ができないといった限界があります。もっと途上国の開発に直接的にかかわる仕事がしたかったため、国際機関の空席情報などを探し始めました。しかし、自分の専門性を活かしたいと思ったため、そうしたポジションにめぐりあうまでに数年かかりました。現在のMIGAの駐日代表のポジションは、LinkedInで知りました。これまで日本の投資家とは一緒に働いた経験があり、途上国でのプロジェクトファイナンスを手がけていたことから業務知識もあり、自分の経験を活かすことができると思い応募しました。

私の場合は40代で転職したのですが、当時シンガポールに住んでいたため、東京への引っ越しや子供の教育環境の変化など、家族のことを考えなければいけませんでした。しかし、開発に携わりたいという強い気持ちがあったため、家族と職場の上司に、素直に思いを伝えました。自分の心に素直になって話すことで、転職に関して妻と息子を始め全員のサポートが得られたというところが大きいです。

日本の投資家が途上国に投資する際の政治リスクを保証

The World Bank
現在は、日本の銀行や商社、メーカーが途上国でプロジェクトを行う際に非商業的な政治リスク(通貨の兌換や送金の制限、政府による契約不履行、収用、または戦争、内乱等)に対して保険を提供し、日本からの民間資金を途上国に向けられるよう支援しています。

MIGAの強みは、プロジェクトに支障をきたしかねない政治リスクに対して解決のための支援を行うことができることです。全世界でこれまでに保証した約750件の保証引受のうち、約100件ほどで支援が必要となりましたが、MIGAが世界銀行のネットワークなども活用しながら解決の仲介を行い、国有化事案の2件、戦争・内乱事案の4件の計6件以外は、すべて解決しています。

2011年からは、従来の政治リスク保証に加えて、民間金融機関などの投資家による開発途上国政府向け融資の、債務不履行の保証も提供しています。さらに2013年より、一部の国営企業にも債務不履行の保証を行っています。

MIGAは事業規模の割に職員が少ないため、一人ひとりの責任が大きく、自分たちの判断でその案件がまとまるかどうかがきまるので、やりがいを感じます。MIGAだけで保証が出来ない時などは、他の輸出入金融機関や国際開発機関と協力することもあります。

多様性に富む職場環境

The World Bank
日本の企業と違うところは、まず男女、国籍、経験の多様性が挙げられます。各国から集まった人たちと案件を作り上げていく時には、予想しなかった意見が出てくることもあって、そのような意見をまとめあげていく力が必要となります。

働きやすさという点で、時差や地域を考慮して、会社以外のどこからでも会議に参加できるようなIT環境も整備されています。そのかわり、成果に対する評価は厳しく見られますので、自分やチームを管理することが重要です。

シエラレオネにおける案件支援

The World Bank
MIGAはパイナップルの栽培や収穫、他の熱帯果物の輸出に対して3,600万ドルの政治リスクの保証を提供しています。
2019年8月、伊藤忠商事が実施するシエラレオネ南部におけるパイナップル農業施設の設計、建設と運営に対して3,600万ドルの政治リスク保証を提供しました。シエラレオネは、良質なパイナップル生産が見込まれるために事業の候補地となりましたが、事業リスク以外へのリスク保証が必要だと考えられたため、MIGAが政治的リスクの保証をお手伝いすることになりました。この案件がまとまったことで、現地に3,000以上の雇用が生まれ、パイナップル輸出で外貨を獲得することができ、シエラレオネの経済成長に貢献すると見込まれています。

日本の投資家の案件づくりのお手伝いをしていきたい

The World Bank
東京都内の大学でキャリアについて講演する林田代表
まだ着任して一年足らずですが、まずはMIGAという組織について、日本での認知度を上げたいと思っています。過去6年間に、世界全体でMIGAのポートフォリオは倍増しました。今後は、より使い勝手を良くして、日本企業の案件づくりをお手伝いしていきたいです。MIGAの途上国の開発において重要な役割を担っていますが、より多くの案件を手掛け、大きな開発効果につなげていくことが、これからのMIGAの課題だと思っています。

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